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税理士が関与先の為に知っておきたい金融知識

グローバルサウスへの投資はどうですか?と聞かれたら 個人投資家が知っておきたい「次の成長」を取り込む方法

2025/06/12

 「グローバルサウス」という言葉をご存じでしょうか。近年、経済ニュースや投資関連の話題で頻出するこの言葉は、従来の「新興国」や「途上国」と似た概念でありながら、より地政学的・経済的な意味合いを持っています。

 グローバルサウスとは、南半球を中心としたアジア、アフリカ、中南米などの新興・途上国を総称した言葉で、2050年までにグローバルサウスの人口は全世界の3分の2を占めるようになると予測されているほか、経済の面でも名目GDPの合計が米国や中国を上回る規模にまで拡大する見通しです。かつての冷戦時代に「第三世界」と呼ばれていた国々となっており、特にG7や中国・ロシアと距離を置き、「中立・自立」の外交姿勢を見せる国々も含まれるため、地政学的に重要な位置づけでもあります。

 「世界の分断」や「脱グローバル化」、「自国主義」に直面する中で、このグローバルサウスに注目が集まっているのは必然といえるでしょう。では、私たち個人投資家は、どのようにこの「次の成長」を取り込んでいくべきなのでしょうか?本稿では、投資信託を活用した投資法や、日本株を通じた間接投資の方法まで、具体的にわかりやすく解説していきます。

 長期投資であれば、ポートフォリオの一角にグローバルサウスを入れておくことは一考の価値があると思います。

 その理由の一つは人口ボーナスの継続です。今後の世界人口の増加分の多くは、アジア・アフリカなどグローバルサウスに集中すると予測されています。特にサブサハラ・アフリカ地域では、人口が2050年までに倍増するとの見方があり、その中心にいるのが15歳から24歳の若年層です。このような若い労働力が増加する社会では、消費や生産、起業のポテンシャルが高まり、経済成長が持続しやすい「人口ボーナス」が見込まれます。日本の高度経済成長期を思い浮かべていただけると成長イメージが湧きやすいのではないでしょうか。欧州や東アジアでは高齢化が進行しており、労働市場の縮小や社会保障費の膨張という構造的な課題を抱えているなかで若く拡大する人口を有するグローバルサウスへの投資は、将来の経済的果実を得るための人口戦略として注目に値します。

 加えて都市も急速に進行しており、グローバルサウスの国々ではインフラ整備、交通、住宅、エネルギー、通信といった分野において莫大な需要も生まれます。インフラ開発やデジタル化、製造業の移転などによる産業の高度化も進んでおり、若年層の教育水準向上によってイノベーションや消費の中心となる中間層が育っていく期待感もあります。製造業や物流業の投資先としてグローバルサウスが重要な位置を占めることも押さえておきたいところです。

 2025年4月22日にIMF(国際通貨基金)が発表した世界経済の見通しによると、グローバルサウス諸国もトランプ関税による影響が予想されるものの、内需による経済成長が見込まれるため、下方修正は小幅に抑えられ、インドは2025年は6.2%、サウジアラビアは3.0%の高成長が見込まれています。独自の経済発展を模索するグローバルサウス諸国の株式は地域分散の意味でも引き続き投資妙味があると考えられます。

ではグローバルサウスへの投資を検討する場合、投資初心者の方が取るべきアプローチについて考えたいと思います。

 最も手軽で現実的な選択肢が「投資信託」です。

 新NISAの成長投資枠でもグローバルサウスを組み込むことができます。公募投信で初のグローバルサウスを投資対象として着目したファンドである「EXE-i グローバルサウス株式ファンド」は、グローバルサウスの株式に実質的に分散投資を行う投資信託となっています。主な投資対象国は、ラテンアメリカ、アフリカ、中東、南アジア、東南アジアの地域の新興国です。

 グローバルサウス全体ではなく低コストで一か国を選ぶとするならインドが有力な選択肢となるのではないでしょうか。インド投信はNISAでも人気のため、コスト競争から低コストのファンドも多くなっていますし、英語話者が多く、IT産業の基盤が整っているインドは、無人探査機を月の南極付近に着陸させることを世界で初めて成功させるなど高い技術力を持ち、経済的にも世界でのその存在感を着実に高めている世界最多人口の国です。購買力が高いとされる中間所得者層も増加傾向にあることに加えて人口ボーナスも期待できるので経済成長期はまだ初期段階だといえることも魅力です。

 「SBI・iシェアーズ・インド株式インデックス・ファンド(愛称:サクっとインド株式)」「アムンディ・インデックスシリーズ インド株」、「ピクテiTRUSTインド株式」など、興味のある方はぜひ調べて比較してみてください。

 ほかにもインドと同じように今後の成長を期待されているインドネシアの投信「イーストスプリング-イーストスプリング・インドネシア株式ファンド(資産成長型)」も新NISA成長投資枠対象です。

 信託報酬の水準や、為替リスク、国別の比率(中国が含まれるか否か)などに注目しながら、自分に合ったファンドを選ぶと良いでしょう。

 もう一段階進んだ選択肢として海外ETFへの投資があります。米国市場で取引される以下のようなETFは、証券会社を通じて購入可能です。

 ブラジル、ロシア、インド、台湾、中国、南アフリカなど、世界中の新興国市場で大型・中型株に分散投資できるVWO(バンガード・FTSEエマージング・マーケッツETF)や、MSCIインド・インデックスの価格および利回り(手数料・費用控除前)に概ね連動する投資成果を目指すETFのINDA(iシェアーズ MSCIインドETF)、MSCIインドネシアIM I 25/50インデックスに連動する投資成果を目指すETFのEIDO(iシェアーズMSCIインドネシアETF)など、少額から売買できるのも魅力です。ただこれらは分散性に優れ、流動性も高い一方、ドル建てである点や為替リスクに注意が必要です。

 新興国に直接投資することにハードルを感じる方には、「間接的な投資」という選択肢もあります。それは、日本企業の中で「グローバルサウスとの関わりが深い企業」に投資するというアプローチです。

 例えばインドや中東などのプラント建設に強みを持つエンジニアリング企業で資源国のインフラ需要増大に伴う受注残高が拡大する東洋エンジニアリング(6330)や、ブラジルでバイオメタン生産地から実現性の高い輸送インフラの構築を目指す、現地でのモビリティ、医療、物流など多岐にわたる事業を展開する豊田通商(8015)など、「新興国で稼ぐ」企業でありながら日本株として円建てで投資可能です。銘柄選びには経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(我が国企業によるインフラ海外展開促進調査)」に係る間接補助事業者の採択結果について、というリリースも参考になるでしょう。

 最後にグローバルサウス投資には大きな可能性がありますが、為替リスク(新興国通貨は安定性に欠け、円高になるとリターンが目減りすることがあります。)、政治リスク(政権交代や政策変更、汚職など、法制度や統治の未熟さによる不確実性があります。)、市場の未成熟性による流動性が低く、情報の透明性に課題がある懸念などもあります。したがって、「新興国=高成長=必ず儲かる」と単純に考えるのではなく、「分散投資の一部」として慎重に組み入れる姿勢が重要です。初心者であれば、まずは少額の積立投資から始めるのが賢明です。未来の経済の主役となる「グローバルサウス」との関係を、いまから築いていくことが、将来の資産形成において大きな果実をもたらすかもしれません。

参考にしたサイト

https://www.unic.or.jp/activities/international_observances/un75/issue-briefs/shifting-demographics/

アドバイザー/三井 智映子
金融アナリスト、株式会社オフィスはる代表、日本PCサービス株式会社 社外取締役、株式会社イベントス取締役COO、「投資WEB」プロデューサー
【出演・掲載実績】
NHK・フジテレビ・テレビ東京・日本テレビ・BSフジ・テレビ大阪・ラジオNIKKEI・ダイヤモンドZAI・マイナビ・週刊フジ・日経マネー・女性セブン・SPA!・FX攻略.com・ワッグル・CLASSY・SPA!など
【著書】
『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門 』(講談社)
『はじめての株価チャート1年生 上がる・下がるが面白いほどわかる本』 (アスカビジネス)

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