税理士が知っておきたい「政策に売りなし」という相場格言の本当の意味
2025/07/10
「政策に売りなし」という格言の本質はシンプルで、政府が資金を動かす方向に逆らってはいけないという投資の大原則を表しています。政府が経済を活性化させるために特定分野に予算を投入したり、税制優遇を設けたり、新たな法律や規制緩和を進めれば、自然とその分野に資金が集まり、株価が上昇しやすくなる。それがこの言葉の意味です。

過去を振り返っても、「アベノミクス」「地方創生」「脱炭素」「デジタル田園都市国家構想」「防災・減災」など国策テーマに乗った業種が相場をリードする場面がたびたび見られました。投資家が利益を得るためには、この政策の流れを読み解き、そこに乗ることが大事なのです。
ここで一つ疑問が出るかもしれません。
「それって投資家向けの話じゃないの?」と。
実は違います。なぜなら、税理士は顧問先の財産形成アドバイザーであり、時には投資判断のきっかけを与える役割も担っているからです。
たとえば、法人クライアントが余剰資金で自社株買いや設備投資を検討している場合や、個人顧客が相続税対策として上場株式投資を始めたいと相談してきた場合、節税目的でNISAやiDeCoについて聞かれた場合などの場面で「今の国の政策がどこに向かっているか」を理解しているかどうかで、アドバイスの質が大きく変わると考えます。顧客に「最近どんな投資テーマが有望ですか?」と聞かれた時に「今政府が力を入れているのはこれですよ」と、政策ベースで答えられると信頼感に繋がるのではないでしょう。
では、実際に「政策の流れ」を知るために、どこを見れば良いのか、まずブックマークしておきたいのが、内閣府のホームページです。特に、投資家や金融機関が毎年注目するのが、「経済財政運営と改革の基本方針」、通称「骨太の方針」です。この「骨太の方針」は毎年6月頃に閣議決定され、政府の翌年度予算編成の土台となる基本方針です。どの分野に税金が使われ、どの産業が優遇され、どの領域で規制が変わるか。その国のお金の流れが集約されているのです。
今年2025年の骨太方針では、以下の5つのテーマが特に大きな柱とされています。
【1】賃上げ支援と物価・所得好循環の実現
→ 賃金上昇を促進し、個人消費を刺激する政策
これにより、小売、外食、レジャー、サービス関連企業にはプラス材料が期待されます。
最低賃金の引き上げ、中小企業向けの賃上げ支援策などが盛り込まれています。
【2】GX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)推進
→ 脱炭素、デジタル化分野への国家的な大型投資が継続
再生可能エネルギー、EV、水素、ITインフラ、クラウド、サイバーセキュリティ関連銘柄が注目されます。
【3】地方創生2.0
→ 観光、農業、インフラ、地域交通への投資拡大
地方交通事業者、地域スーパー、観光施設運営会社など、内需・地方密着型ビジネスに追い風です。
【4】資産運用立国の推進
→ 貯蓄から投資への資産移転を加速
NISA・iDeCo・DC制度の拡充により、証券会社、運用会社、金融プラットフォーム事業者などに恩恵。
【5】国土強靭化・経済安全保障の強化
→ インフラ老朽化対策、防災、半導体供給網、サイバーセキュリティが重点分野
建設、資材、ITセキュリティ、半導体設備関連銘柄が恩恵を受けやすいとされています。
【6】医療・介護・福祉関連:人口減少時代の成長セクター
→高齢化の進行に対応するため、医療・介護・福祉サービスの充実も政策テーマに据えられています。地域包括ケア、介護人材支援、医療DX(電子カルテ普及など)といった分野が政策支援の対象です。医療IT、介護サービス、ヘルステック、人材サービス、在宅医療機器メーカーなどに恩恵が考えられます。
このように、骨太方針をもとに、「GX関連」「資産運用立国関連」「防災関連」テーマ型ファンドや、「政府が重点投資する分野のETF」や「インフラ・防災関連株式」、「資産運用立国」という国策に乗った、長期成長が期待できる分野への分散投資などは国策に則っていて…と顧客に紹介する手がかりとなるのではないでしょうか。
分散投資も重要です。政策テーマに沿って有望な分野を複数組み合わせることで、個別銘柄リスクを抑えつつ、政策追い風の恩恵を広く受けることができます。具体例としては、異なるアセットを組み合わせることに加えて、個別株のなかでも成長分野の中小型グロース株と業績回復基調の割安株、連続増益・高配当株、防災・インフラ関連内需株を組み合わせるなど分散投資を意識することを顧客にも勧めた方が資産防衛につながると考えます。
また今回の骨太方針2025で意識しておきたい今後の注意点として財政健全化について押さえておきましょう。基礎的財政収支(PB)黒字化の目標時期が「2025~2026年度」とやや柔軟化されたものの「2030年度までに債務残高GDP比をコロナ前水準に戻す」という明確な財政目標も提示されています。無駄な補正予算の常態化を止める方針が打ち出されたといえ、このことは、将来的に増税や補助金カット、公共事業の選別が進むリスクも意味します。税理士としては、今は追い風でも、2~3年後に政策が縮小する可能性があるセクターや逆に、中長期で国が予算を切らない、守りの強い分野なのかという視点で顧客への中長期投資アドバイスを考える必要があるのでは「未来のマネーの流れ=政策動向」に敏感であるためにもぜひ内閣府のホームページを定期的にチェックしてみてください。
アドバイザー/三井 智映子
金融アナリスト、株式会社オフィスはる代表、日本PCサービス株式会社 社外取締役、株式会社イベントス取締役COO、「投資WEB」プロデューサー
【出演・掲載実績】
NHK・フジテレビ・テレビ東京・日本テレビ・BSフジ・テレビ大阪・ラジオNIKKEI・ダイヤモンドZAI・マイナビ・週刊フジ・日経マネー・女性セブン・SPA!・FX攻略.com・ワッグル・CLASSY・SPA!など
【著書】
『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門 』(講談社)
『はじめての株価チャート1年生 上がる・下がるが面白いほどわかる本』 (アスカビジネス)