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税理士が関与先の為に知っておきたい金融知識

税理士が顧客に「資産構築のためにどのような行動を取るべきでしょうか」と聞かれたら

2025/08/08

 「資産を着実に増やすには何をすればいいですか?」

 インフレ時代は資産の運用が必要な時代であるのもいえますが、必要性がわかっても、資産を構築する上でどのような行動をとるべきか、疑問を抱く方は多いと思います。

 今回は顧客にこのような質問をされた際に資産構築を長期的な視点で捉え、日々の行動をどのように組み立てるかをお伝えします。以下のポイントを押さえることで節約や投資、税制優遇制度の活用などを習慣化することで、無理なく着実に資産を増やしていけると考えます。

 最初に確認したいのは「なぜ資産を構築したいのか」という動機と目標です。住宅購入や教育資金、老後の生活費など、それぞれのライフステージに必要な金額と時期を具体的にイメージすることで、必要な貯蓄額や投資ペースが明確になります。

 税理士としては、顧客に対して「いつまでにいくら必要か」「リスク許容度はどれくらいか」をヒアリングし、SMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Realistic:現実的、Time-bound:期限付きの5つの頭文字を取ったもの)に沿って目標設定するとわかりやすいのではないでしょうか。この目標があれば、毎月の貯蓄額や投資配分を具体的に決めやすくなり、モチベーションも維持しやすくなります。

 次に取り組むべきは家計の可視化です。

 給与や副業収入から出ていく支出をすべて洗い出し、家計簿や家計管理アプリを用いて3カ月ほど実態を把握してください。税理士としては、顧客に「固定費」「変動費」「貯蓄・投資」の三つに区分することを勧めています。固定費は保険料や通信費、サブスクリプションなど毎月必ずかかるコストのことです。これらを見直すことで、年間数万円から数十万円の節約ができる可能性があります。例えば、保険の保障内容をライフステージに合わせて最適化したり、不要なサブスクを解約したり、携帯キャリアを格安プランに切り替えるだけでも効果は大きいでしょう。

 変動費については、食費や交際費、趣味・娯楽費などが該当します。ここでは「先取り貯蓄」の仕組みを活用し、給与振込口座から自動的に一定額を普通預金や投資口座に移すことをおすすめします。税理士としては、顧客に「残った金額で生活する」というマインドセットを提案し、ついつい使いすぎてしまう心理的ハードルを下げるアドバイスを行います。

 また、日々の節約行動としては、外食を減らして自炊を徹底する、まとめ買いやセール活用で食材コストを抑える、電気・ガスの使用量を意識する、ポイント還元サービスやクレジットカードの活用で実質的な割引を得るなどが挙げられます。投資をする場合は株主優待でクオカードや外食、サービスなどの割引券、お米や食材、日用品などを受け取り、活用することも家計の助けになるでしょう。これら節約によって生まれた余剰資金を、次のステップである投資に回すことが資産構築の近道です。

 万が一に備える「緊急予備資金」を確保することも、税理士として強く勧めるポイントです。医療費や修理費、失業などのリスクに直面した際、資産運用中の金融商品を解約せざるを得ない状況を避けるため、生活費3~6カ月分程度を普通預金口座にプールしておくことが安心です。ここでは、普段の引落し口座とは別に「防衛資金専用口座」を設けることで、予備資金を手をつけにくくする工夫が有効です。税理士としては、顧客に対して「資産全体のうち緊急資金は○%まで」と目安を示し、定期的に残高をチェックする習慣化を後押しします。

 一方で「高金利負債」がある場合は、返済計画も同時に行います。クレジットカードのリボ払いや消費者金融の借入金など金利負担が重い借金があれば、優先的に繰上返済を進めることが資産構築の効率化につながります。税理士としては、顧客に対して「毎月返済可能な金額」を設定し、自動振替で返済スケジュールを組むようアドバイスします。これにより借金の総返済額を大幅に減らすことができ、浮いた利息分を投資に回すことが可能になります。

 いよいよ資産運用フェーズでは、「長期的な分散投資」が鍵となります。一つの資産クラスに偏ると市場変動の影響を受けやすくなるため、国内外の株式、債券、不動産投資信託(REIT)、コモディティなど複数の資産に分散するアセットアロケーションを策定します。税理士としては、顧客の年齢やリスク許容度、目標リターンに応じて最適な配分をシミュレーションし、ポートフォリオを構築するサポートを行います。具体的には、低コストで運用できるインデックスファンドやETFを中心に据え、iDeCoやつみたてNISAなどの非課税制度をフル活用することを勧めています。

 また、一定期間ごと(半年~1年)にリバランスを行うことで、当初の資産配分比率が崩れた場合にも修正し、リスク管理を徹底します。税理士としては、顧客に「年に一度のポートフォリオ点検会」を設定し、運用実績や市場環境の変化を踏まえて必要な見直しを行う習慣を提案します。

 税制優遇制度の活用も忘れてはなりません。iDeCoは掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税、受取時にも一定額まで公的年金等控除や退職所得控除が適用されます。つみたてNISAは運用益が非課税となるため、長期保有に適した制度です。税理士としては、顧客に「毎年の非課税枠を確実に使い切る」ようスケジュール管理表を作成し、積立設定を確認する仕組みを構築します。

 節約と投資を結び付けるためには、「浮いたお金を自動で投資に振り向ける」仕組みづくりが効果的です。たとえば、クレジットカードのポイント還元で得たポイントを自動的に投資信託に交換したり、PayPayや楽天ポイント、メルカリのポイントなど、顧客が使っているサービスのポイントが資産運用に使える可能性を示すのも良いと思います。加えてボーナスや臨時の収入が入った際には即座に投資口座へ振り込むよう、自動振替ルールを設定します。税理士としては、顧客に対して「節約で生まれた時間的余裕と資金を、投資に回す」というマインドチェンジを促します。

 最後に、情報収集と自己研鑽を継続することが求められます。投資環境や税制は刻々と変わるため、信頼できる情報源を複数持ち、定期的にセミナーや書籍、専門誌で最新情報をアップデートする習慣を身に付けましょう。税理士としては、顧客に「年1回の勉強会参加」「四半期ごとのメールマガジン購読」など具体的なアクションプランを提示し、学びを実践に結び付けるサポートを行います。

 資産構築は一朝一夕で達成できるものではありません。しかし、目標設定→収支管理→緊急予備資金確保→分散投資→税制優遇制度活用→継続的学習というサイクルを回し続けることで、着実に資産が増えていきます。税理士として私は、顧客一人ひとりのライフプランに寄り添い、節約や投資、税務面のアドバイスを組み合わせながら、長期的に安心して資産を築ける体制づくりを支援いたします。まずは小さく始めて、自動化と習慣化を心がけましょう。継続こそが最大の力となります。

アドバイザー/三井 智映子
金融アナリスト、株式会社オフィスはる代表、日本PCサービス株式会社 社外取締役、株式会社イベントス取締役COO、「投資WEB」プロデューサー
【出演・掲載実績】
NHK・フジテレビ・テレビ東京・日本テレビ・BSフジ・テレビ大阪・ラジオNIKKEI・ダイヤモンドZAI・マイナビ・週刊フジ・日経マネー・女性セブン・SPA!・FX攻略.com・ワッグル・CLASSY・SPA!など
【著書】
『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門 』(講談社)
『はじめての株価チャート1年生 上がる・下がるが面白いほどわかる本』 (アスカビジネス)

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