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相続・事業承継Vital Point of Tax

民事信託(家族信託)のニーズの一例と税理士に期待される役割➀

2023/05/11

 税理士の先生方は、日ごろの業務の中で、不動産オーナーや企業オーナーと接する機会が多いと思います。オーナーから相談を受け、何か良い解決方法はないかと頭を悩ませている方もいらっしゃるでしょう。また、顧問先から民事信託について尋ねられて戸惑ったご経験のある先生もいらっしゃると思います。ここでは、民事信託が実際にどのように利用されているかを紹介します。その上で、民事信託で解決しうる顧客の課題の例や、民事信託との付き合い方について述べたいと思います。

Ⅰ  民事信託の活用事例

◎不動産オーナーの認知症対策・生前対策

 まずは、現在、最もポピュラーであろう利用例です。

 たとえば、高齢者が有する不動産や預貯金は、そのままにしておくとその高齢者の認知症等により活用することができなくなりかねません。不動産取引ができなくなり、預貯金口座が凍結されます。成年後見制度がそのような場面で利用されることが法制度上の建前であるものの、弁護士等が成年後見人になれば他人が家庭内に介入することになることや、後見人報酬の負担が重いなどの事情により敬遠されがちです。

 そこで、家族内で高齢になった父母の財産管理ができるようにしたいとのニーズに応えるものとして民事信託が利用されます。信託を利用すれば、譲渡税や贈与税の負担なく財産の権利・名義を子などに移すことができます。たとえば、高齢の父が有する賃貸物件や金銭を対象にし、父と長男との間で信託契約を結ぶことにより、以後、長男がその不動産の所有者かつ預金名義人となり、不動産の売却や賃貸、口座の管理を行うのです。長男への報酬の有無は契約で定めます。

◎不動産の共有対策

 信託を利用すれば、共有状態の解消も予防もすることができます。たとえば、父の相続により、賃貸物件を母と長男と二男が法定相続分と同じ割合で共有している家族がいるとします。この場合、母が2分の1の持分を有するので、この賃貸物件を売却する際はもちろんのこと、賃貸するにも、持分過半数の賛成、つまり母の同意を要することになります。この状況では、母の認知症等による判断能力の低下・喪失、入院や高齢者施設への入居、遠方に居住しているなどの事情により、母の同意を得ることが困難又は不可能となることが懸念されます。

 こういった場合に、共有者全員が自らの持分を対象として一人の受託者(たとえば、長男)との間で信託契約を締結すれば、以後、長男が単独所有者としてその賃貸物件を管理することになります。母の同意は不要になります。

 では、この信託の利用中に母が亡くなった場合はどうなるでしょうか。すでに信託の対象となっている母の持分は相続財産に含まれないため、遺産分割の対象にはなりません(相続税の対象にはなります。)。信託契約の中で、母がそれまで持っていた受益権を次に誰が取得するかを予め決めておき、その定めに従い、受益権が承継されることになります。不動産持分は受託者の下に留まり、相続人に承継されませんので、さらなる共有が生じるのを防ぐことができます。



 アドバイザー/金森民事信託法律事務所 金森 健一 弁護士

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