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相続・事業承継Vital Point of Tax

希望に沿った相続・事業承継を実現 信託に期待される5つの機能

2021/05/18

 大切な財産や大事な会社をどのように守るか――、そんな悩みを抱える資産家や経営者がここ数年でかなり増えています。遺言書を作成する人も年々増えており、日本公証人連合会の統計によると、令和元年の遺言公正証書の作成件数は113137件で、10年前に比べて45%も増加しています。

 こうした状況に対し、信託銀行や地方銀行をはじめとする金融機関などは、相続・事業承継に関するセミナーを積極的に展開したり、生前対策として有効な商品やサービスを次々と打ち出すなど、顧客の囲い込みに躍起になっています。相続や事業承継に関するテレビコマーシャルや広告などを目にする機会も増えていますので、資産家や経営者の方々もこれまで以上に自身の生前対策について考えることが多くなっていると思います。親族間で争いを起こさないためにも、早い段階で効果的な対策を打っておきたいものです。

 そこで、大切な財産や会社を次世代に円満に引き継がせ、希望に沿った相続・事業承継を実現させる「信託」について考察してみたいと思います。

【相続・事業承継と信託】 
 
 信託とは、信託法に基づく「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度(信託協会ホームページより)です。
資産家や企業オーナーが相続・事業承継を考える際には、まさにこのようなことを想い願うのではないでしょうか。つまり、信託とは、相続・事業承継に非常にマッチした制度のひとつといえます。

 この信託法に基づく信託を、信託業法等に基づいて業として受託しているのが信託銀行や信託会社などで、これが「商事信託」と言われるものです。一方、ビジネスではなく、親族間などで行われる信託が「民事信託」と呼ばれるものになります。

 日本公証人連合会の調査によると、2018年における民事信託に関する公正証書の作成件数は2223
件でした。ただ、民事信託において公正証書の作成は必ずしも義務ではありませんので、実際に民事信託を利用した人はさらに多いといえます。なお、商事信託と民事信託には、それぞれ利用するお客さまによってメリット・デメリットがありますので、個々の事情やコスト負担などを踏まえたスキーム選びが必要となります。

【信託の機能と事例】
 
 もう少し具体的に相続・事業承継と信託の関係についてみてみましょう。信託には様々な機能がありますが、相続・事業承継では主に以下の5つの機能が活用されています。(※カッコ内は典型的なニーズになります)

①財産管理機能(認知機能低下に備えておきたい)
②遺言代用機能(遺言によらず資産の承継先を決めておきたい)
③受益者連続機能(二次、三次の財産承継先を決めておきたい)
④財産の量と質の転換機能(議決権を持ったまま、自社株承継を図りたい)
⑤流通税コスト削減機能(不動産信託受益権化して流通税コスト削減を図りたい)

 この5つの機能は、組み合わせて利用することもできますので、商事信託、民事信託を問わず、お客さまの状況に合わせた様々な信託スキームが構築されています。

【信託活用の留意点】

 
 信託は相続・事業承継において有効な機能のひとつですが、決して万能ではありません。お客さまの相続・事業承継で信託の活用を検討する際には、少なくとも、次のことに留意する必要があります。


①スキーム組成の限界 
 信託銀行等の商事信託は信託業法等に基づく営業のため、お客さまニーズに応じた商品・サービスのカスタマイズや低廉なコストでの受託には限界があると言われています。この点、親族等を受託者とする民事信託はスキームの柔軟性はあると考えられますが、受託者が親族等であり、専門家ではないことを考えると、あまり複雑なスキームを組成するとやはり限界が出てくると思われます。

②税務上の効果 
 不動産現物を受益権化することで流通税コストの削減効果は得られますし、信託銀行などが扱う「教育資金贈与信託」のように一定の非課税特典がある商品もあります。しかしながら、そのような例を除けば、基本的には信託スキームは税務的には中立であり、信託を使ったことによる節税効果というものは期待できません。

③一定のコストがかかる
 これは信託に限りませんが、相続・事業承継への対応には一定のコストが発生します。例えば、不動産を信託すれば信託設定の登記費用がかかります。商事信託であれば信託銀行などに支払う信託報酬が発生するほか、民事信託においてもしっかりとした民事信託契約書を作成するような場合は、士業への支払いコストが発生することになります。

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