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相続・事業承継Vital Point of Tax

帝国データバンク調査 後継者不在率 過去最低の52% 「脱ファミリー化」の動きが加速

2025/03/04

 帝国データバンク(以下、同社)がさきごろ発表した約27万社を対象とした「全国『後継者不在率』動向調査(2024年)」(調査対象期間:2022年10月~2024年10月)によると、後継者が「いない」または「未定」とした企業は14万2千社。後継者がいない企業の割合は全体の52.1%で、7年連続で前年の水準を下回り、2011年の調査開始以降で過去最低となった。

 この結果について同社は、「事業承継に関する官民の相談窓口が全国に普及し、プル・プッシュ型の各種支援メニューも拡充されたことで、従前は支援対象として手が届かなかった小規模事業者にも門戸が広がった。自治体や地域金融機関などの支援機関が事業承継を呼びかけるアナウンス効果も加わり、事業承継の重要性が広く認知・浸透したことが、後継者不在率の改善に大きな影響力を発揮した」と分析している。

 後継者不在率を業種別(建設業、製造業、卸売業、小売業、運輸・通信業、サービス業、不動産業)でみると、2011年以降の調査期間で初めて、7業種すべての後継者不在率が60%を下回った。

 後継者不在率が最も高いのは「建設業」の59.3%だったが、最も高かった2018年の71.4%より12.1ポイント低下した。一方、「製造業」の不在率が43.8%と最も低かったが、その背景には「自動車産業をはじめ、サプライチェーン(供給網)を構成する企業の事業承継問題が全体の供給網に影響を及ぼしかねないとの認識が広がっており、重点的な支援が行われてきた」(同社)ことがあるようだ。

 業種をより細かくみると、後継者不在率が最も高いのは自動車ディーラーなどの「自動車・自転車小売」(64.9%)。次いで、住宅建築などの「職別工事業」(63.0%)、病院・診療所(クリニック)などの「医療業」(61.8%)。不在率が最も低いのは「金融・保険業」(34.1%)だった。

●M&Aなどの事業承継が増加

 2020年以降の過去5年間で代表者交代が行われた企業をみると、これまで事業承継の形式として多かった「同族承継」が目立つ。2023年(実績値)も「同族承継」が36.0%と最も多かったが、血縁関係がない役員・社員を登用した「内部昇格」の割合が34.4%となり、その差は1.6ポイントまで接近。

 そして、2024年は速報値の段階だが、「内部昇格」による事業承継が36.4%となり、「同族承継」の32.2%を上回った。

 2024年の調査結果をみると、買収や出向を中心にした「M&Aほか」(20.5%)、社外の第三者を経営トップとして迎える「外部招聘」(7.5%)などの事業承継の割合も増加しており、「日本企業における事業承継は、これまで最も多かった身内の登用など親族間承継から社内外の第三者へと経営権を移譲する『脱ファミリー化』の動きが加速している」(同社)。

●後継者不在による倒産も相次ぐ

 今回の調査で後継者不在率が改善傾向にあることが分かったが、「前年からの改善幅はコロナ禍以降では2020年に次いで2番目に小さく、後継者不在率の改善ペースは鈍化傾向が見られる」(同社)。また、2024年1~10月に発生した後継者不在による「後継者難倒産」(負債1000万円以上、法的整理)は455件に達しており、「代表者が高齢で後継者がいない、円滑な事業承継が進まない企業を中心に、後継者難倒産が今後も発生する可能性が高い」(同社)。

 こうした状況からも親族にとらわれない事業承継の重要性がさらに増してくるところだが、後継者不在の中小企業を狙った悪質な「M&A仲介」も増えているようだ。後継者がいない中小企業の代表者が仲介業者を通じて売却したものの、買収元企業により給与遅配や税金未納など健全な企業経営が行われない、個人保証が解除されないといったトラブルが相次いでおり、同社は「事業の『第三者承継』へのシフトが鮮明となるなかで、有力な選択肢だったM&Aによる事業承継に影響を及ぼしかねず、後継者不在率の動向とともに事態の注視が必要」と指摘している。

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