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相続・事業承継Vital Point of Tax

相続対策や認知症対策で注目! 家族信託で財産や生活を守る

2022/05/20

 近年、新しい財産管理や相続・事業承継対策の有効手段として「家族信託」が注目されているが、具体的にどんな場面で効果を発揮し、活用する際にはどのような点に注意すべきなのだろうか。一般社団法人家族信託普及協会の認定資格「家族信託コーディネーター」を保有し、㈱日税経営情報センターにおいて「日税民事信託コンサルティングサービス」を提供している松本勇氏に話を聞いた。

――家族信託について簡単に教えてください。
 まず、信託とは、財産を持っている人すなわち委託者が、その財産の管理や処分を、信頼できる人すなわち受託者に任せる仕組みです。信託銀行や信託会社などがビジネスとして受託をする商事信託ではない信託の類型として民事信託があり、家族が受託者となることが多いことから家族信託とも呼ばれています。家族信託は、例えば自分の老後に備え、保有する不動産や預貯金を信頼できる家族や親族に託し、その管理や処分などを任せるなど、財産管理のひとつの手段として利用されています。家族信託は家族や親族の中から受託者を選ぶため大きな手数料を支払う必要はなく、無償や低額の報酬で利用することができます。また、本人が亡くなった後も、ご自身の意向が反映された資産管理・資産承継が実現できます。このように家族信託は、まさに家族による家族のための信託といえます。

――家族信託という制度は、以前はなかったのでしょうか。
 信託法が制定された1921年以降、信託は商事信託が中心でした。しかしながら、信託が持つ資産管理・資産承継の機能をより活用しやすくするために2006年に信託法が改正され、家族信託が本格的に利用されるようになりました。ただ、2007年の施行からしばらくの間は認知度も低く、それほど普及しませんでした。

――何をキッカケに注目されるようになったのでしょうか。
 やはり、高齢化の進展に伴って認知症や介護など、家族の問題が社会的課題となったのが大きいと思います。また2015年の相続税の基礎控除の引き下げで、相続を意識する方が増えたこともひとつの要因ではないかと考えています。

――認知症患者は年々増えていると聞きます。
 厚生労働省によると、2025年には認知症患者が約700万人となり、65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。2050年には1000万人を超えるとも言われていますので、けっして人ごとではありません。親が認知症になって介護期間が長引けば、それだけお金もかかってきます。そのため、子どもに迷惑をかけたくないという想いから、親が自分の介護費用を自分で用意しているケースも多いですが、親が認知症と判断された場合、金融機関が親の口座を凍結してしまうことも考えられ、その場合にはたとえ親族であっても親の口座からお金を引き出すことが難しくなってしまいます。あらかじめ家族信託を設定し、親の口座のお金を信託の口座に移して管理することで、そういったリスクにも対応することができるわけです。

――自分のお金なのに自分のために使えないのは切ないですね。
 預貯金だけではありません。将来、親が本人名義の自宅を売却して、そのお金を介護施設の利用料などに充てようと考えている場合も、親が認知症になれば不動産を売却することが困難になり、介護施設に入居するお金が用意できない恐れがあります。認知症になると法律行為や契約行為ができなくなりますので、意思や判断能力があるうちに家族へ財産の管理や運用を託しておけば、認知症を発症しても財産を有効活用することが可能となります。

――そのほか、どのようなケースで家族信託が利用されていますか。
 アパートなどの収益不動産の所有者が認知症になると、収益不動産の管理や修繕、新たな賃貸契約などができなくなりますので、そうしたリスクを回避するために家族信託を利用するケースは多いですね。この場合、例えば、収益不動産の所有者である父親が長男を受託者として家族信託を設定し、収益不動産の管理などは長男が行い、父親は受益者として信託配当を受領します。もし、父親が認知症を発症しても財産はしっかり管理できるほか、父親が亡くなった後は、妻(母親)が信託配当を受領するように設定しておくことで、相続発生後の妻の生活を守ることもできます。

――家族信託は事業承継対策とも親和性がありそうですね。
 おっしゃるとおり、家族信託は事業承継対策にも非常に有効です。家族信託を利用すれば、単純な生前贈与では実現できない、株式の財産権と経営権を分離させた自社株承継も可能となります。例えば、会社の現オーナーに議決権行使の指図権を残しておくことで、後継者に株式が移転した後も現オーナーが経営権を維持できますので、未熟な後継者を育成しながら円滑な事業承継を行うことができます。もちろん、その前にオーナーが認知症を発症すれば、事業承継対策がかなり制限されますので、早いうちにアクションを起こすべきでしょう。

――家族信託を利用する際に注意すべき点はありますか。
 家族信託は委託者と受託者の間での契約で成立するものではありますが、どのようなスキームにするのか、実務的にはどのような手続きが必要になるのかなど、専門家のアドバイスを受けた方が安心です。ほかのご家族との関係においても第三者が入ってご説明をしたほうがスムーズにいくこともあると思います。なお、相続対策や事業承継対策において、家族信託が必ずしもベストの解決方法であるとは限りません。家族信託ありきではなく、それぞれの状況に応じて最適な提案をしてくれる専門家に相談すべきでしょう。

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