日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

相続・事業承継Vital Point of Tax

老老相続 相続人が病気で期限後申告、審判所「正当な理由に該当せず」

2023/02/02

 高齢の親が亡くなり、老いた子が財産を相続するという「老老相続」は、超高齢化社会ならではの世相といえる。中には、相続人自身も病気などを抱えており、亡き親に係る相続税申告の手続きに支障が生じるケースもあるようだ。

 ただ、相続人の病気が、相続税の期限内申告ができなかった「正当な理由」と認められ、無申告加算税を課税するのは酷なケースに該当するかどうかは微妙だ。実際、病気を抱えた相続人に対して厳しい判断が下された事例もあるので確認しておきたい(国税不服審判所、令和4年5月11日裁決)。

 裁決書によると、母の死亡により開始した相続で、相続人自身も病気だったため相続税申告の提出が法定申告期限後になってしまった。すかさず税務署は、無申告加算税を賦課決定したが、相続人は被相続人の死亡時には入院しており、その後も寝たきりで、法定期限内に申告書を提出できるような精神的・肉体的状況ではなかったことから「正当な理由」があるとして、無申告加算税の賦課取消を求めて国税不服審判所(以下、審判所)に判断を仰いだ。

 無申告加算税とは、期限後申告書の提出があった場合に課されるものだが、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」があると認められる場合には、無申告加算税は課されない。つまり、この事例では、病気が正当な理由と認められれば、加算税の賦課は免れるわけだ。

 審判所はまず、「正当な理由」があると認められる場合について、「法定申告期限までに申告書が提出されなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、(中略)納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当」という考え方を示した。

 次に、事実関係について審判所は、諸状況や担当医師らの各所見を確認の上、以下のように整理した。

(1)相続人は申告期間において入院又は通院しており、担当医師らの各所見があることなどから、日常の生活能力は相応に低下していたことが認められる。
(2)一方で相続人は外部の人の接触や外出を担当医師らから禁止されておらず、複数回外出している上、相続とは別件で自身の切迫した問題について弁護士と面会して意思表示をすることができており、申告期間すべてを通して相続人が申告書を提出できる状熊になかったことを客観的に裏付ける証拠も見当たらない。

 最終的に審判所は「病状は、客観的にみて、申告書を法定申告期限までに提出できない状態であったとか、あるいは、税理士など他の者に申告を依頼するなどの意思表示すらできない状態であったとまではいえない」として、無申告加算税を課さない「正当な理由」があるとは認められないと判断した。

 今後、高齢者が進むと「老老相続」もさらに増えてくることが予想される。その際、今回の事例のように相続する側も病気を抱えていることが考えられるが、それが期限後申告の「正当な理由」に当たるかどうかは厳しく判定される。トラブルを回避するためにも、相続が発生した時にどのように対応するか、事前に取り決めをしておくことが重要といえそうだ。

PAGE TOP