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贈与税の追徴なかった借地権に相続税かかるか 東京地裁 相続時精算課税の選択後なら課税対象

2025/05/02

 東京地裁は令和7年1月16日、相続人が相続時精算課税制度の届出をした年分に被相続人から贈与されたものとみなされた借地権の価額について、贈与税の更正処分ができる期間を過ぎたかどうかにかかわらず、被相続人の相続財産に加算されると判断。相続財産にならないとする納税者の主張を退ける判決を下した(本件は控訴)。

平成21年に締結された借地権設定契約が問題に

 問題になったのは、平成21年に被相続人とその子である相続人2人の間で結ばれた借地権設定契約だ。相続人は被相続人の土地の上に建物を建てるため、平成21年7月に建築会社と建築工事請負契約を締結した。借地権設定契約は同年中に結ばれたもので、地代として毎月4万円を支払っていた(およそ4年後には2万円に引き下げられている)。
 この土地がある地域では、借地権設定に伴い権利金等の一時金を授受する取引慣習があった。しかし、相続人は被相続人に一時金を支払わなかったため、設定した借地権に見合う経済的利益を受けたとされる。
 相続人は平成21年11月、被相続人から現金610万円の贈与を受け、翌年に相続時精算課税を選択して贈与税0円として申告した。つまり、相続時精算課税を選択した年分は、借地権の経済的利益を受けた年分となったが、借地権の経済的利益について贈与税の申告はしていなかったわけだ。

令和に行った相続税申告で借地権を相続財産に加えず

 その後、令和の時代になって相続が開始。相続人は相続税を申告したが、その際、借地権相当額を相続財産に加算しなかった。
 税務署は、一人当たり2400万円弱の借地権の経済的利益(借地権相当額)のほか、満期保険金や現金の申告漏れを把握し、修正申告を勧めた。
 相続人は申告漏れのあった満期保険金や現金を相続財産に加算して修正申告を行ったが、借地権の経済的利益については、税務署から贈与税の申告漏れによる追徴が10年以上もなかったことから、相続財産に加算しなかった。
 だが、税務署は借地権の経済的利益を“相続財産”に加算して追徴したため、相続人はそれを不服として裁判所に訴えた。
相続人は主に次のように主張した。

①相続時精算課税により相続財産に加算すべき財産は、特定贈与者(被相続人)からの贈与に係る贈与税について、課税当局による課税権限の行使が可能であることが必要。そうすると、特定贈与者からの贈与に係る贈与税に対する更正決定等の行使が、法令上許される期間(除斥期間=権限が消滅するまでの期間で原則5年・不正があった場合は7年)が経過したことにより、贈与税の課税権限の行使が不可能となった場合には、その財産は相続財産に加算することは許されない。

②借地権相当額の経済的利益を贈与により取得したとみなされるとしても、更正処分時において、借地権相当額の贈与に係る贈与

税に対する更正決定等の除斥期間はすでに経過していたから、贈与税について課税当局による課税権限の行使は不可能であっ
た。したがって、借地権相当額は相続税の課税価格に加算すべき財産に当たらない。

東京地裁の判断

 東京地裁は、まず、相続時精算課税の適用を受けている相続人の相続税の課税価格について規定している相続税法21条の15第1項により「相続時精算課税により相続税の課税価格に加算される財産の範囲」について次のように整理した。
 「相続時精算課税選択届出書の提出に係る財産の贈与を受けた年以後の年に特定贈与者からの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるもののうち、相続税法21条の2第1項等により贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるもの」

 これを踏まえ、東京地裁は「相続時精算課税選択届出書に係る財産の贈与を受けた平成21年以後の年である同年中に、対価を支払うことなく本件借地権相当額の経済的利益を受けた」から、「当該経済的利益を贈与により取得したものとみなされる( 相続税法9条)」と認定。
 そのため、「借地権相当額は、特定贈与者(被相続人)からの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるものであって、原告らの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに該当する」とし、「借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算されるべきもの」と判断した。

 贈与税の更正処分等がなされなかった借地権の経済的利益は、除斥期間が経過しており、いまさら贈与税が課されないので相続財産に加算されないとする相続人の主張に対し、東京地裁は加算される財産の範囲について、相続税法21条の15の条文上「相続税精算課税制度の適用を受ける財産のうち「当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」と規定するにとどまり、これを超えて、納税者の申告や税務署長の更正決定等により贈与税の課税価格に算入されたものとは規定していない」と指摘、相続人の主張は採用できないとした。


 相続時精算課税の適用を受けた相続人が、同制度を選択した年分以降に発生した特定贈与者から受けたみなし贈与の経済的利益について、相続財産に加算すべきかどうかをめぐる税金トラブルは最近散見される。たとえば、本紙47号の相続時精算課税制度で同族会社株式の贈与を受けていたケースで、特定贈与者である被相続人が亡くなる前にその同族会社に債権放棄して発生した株価上昇分がみなし贈与とされ、相続財産に加算されるかどうかが問題になっている事案がそれで、現在裁判になっている状況だ。

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