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相続・事業承継Vital Point of Tax

M&Aのイメージ向上で中小企業でも取組みが活発化

2021/08/24

 経営者の高齢化が進む中、中小企業の事業承継は社会的な課題として認識されている。こうした状況を踏まえ、2021年版中小企業白書では、中小企業の事業承継やM&Aの動向、さらに経営者の事業承継に対する考え方の変化などについて分析している。

 
 2021年版中小企業白書(以下、白書)によると、経営者の平均年齢は2009年(59.57歳)から上昇を続けており、2019年には過去最高の62.16歳となった。高齢化の流れは経営者年齢のピーク(最も多い層)にも現れており、2000年における経営者年齢のピークは「50歳~54歳」だったが、2015年には「65歳~69 歳」まで上昇している。


 経営者の事業承継・廃業の予定年齢を見ると、4割以上の経営者が65歳から75歳未満の間を考えているが、現実にはその層の経営者は多く存在する。また、経営者の年齢別に後継者不在率を見ると、60代では約半数の48.2%。80代以上でも31.8%が後継者不在の悩みを抱えており、白書では、「事業承継や廃業に関する準備が直近の経営課題となっている経営者も多いと推察される。必要性を認識しながらも未着手の経営者は、外部の支援機関の活用も含めて早期に準備を進める必要がある」と指摘している。

買収・売却ともに10年前より「プラスのイメージになった」

 ㈱レフコデータの調べによると、日本におけるM&Aの件数は、2019年に4千件を超えて過去最高となった。2020年はコロナ禍の影響もあって前年より減少したが、それでも3730件と高水準となっている。しかも、これらはあくまで公表されている数字のため、未発表のものを含めると、MA はさらに活発化していることが想像できる。

 とくに注目したいのが、中小企業にとってもM&Aが身近なものになってきた点だ。中小企業におけるM&A件数は増加傾向にあるが、その要因について、白書では東京商工リサーチの事業承継に関するアンケート調査を踏まえて「経営者の意識の変化」を挙げている。実際、中小企業のM&Aに対するイメージは10年前よりも向上しており、買収については33.9%、売却(譲渡)についても21.9%が「プラスのイメージになった」と回答。いずれも「マイナスのイメージになった」を大きく上回っている。

 また、近年は事業承継だけでなく、中小企業の間でも企業規模の拡大や事業多角化の手段としてM&Aを検討する動きが出てきている。買い手としてM&Aを検討した理由を見ると、「売上・市場シェアの拡大」が最も高く、次いで「新事業展開・異業種への参入」、「人材の獲得」、「技術・ノウハウの獲得」などが上位を占めている。なお、買い手としてM&Aを実施する際の障壁としては、「期待する効果が得られるかよく分からない」、「判断材料としての情報が不足している」、「相手先従業員等の理解が得られるか不安がある」などが挙げられている。

売り手の8割超の経営者が従業員の雇用の維持を重視
 
 一方、売り手としてのM&Aの目的を見ると、「後継者不在」や「従業員の雇用の維持」の割合が依然として高いが、「事業の成長・発展」も48.3%と約半数の企業が成長のためにMAを検討している。

 売り手としてMAを実施する際の障壁としては、「経営者としての責任感や後ろめたさ」が30.5%と最も多い。MAに対するイメージは向上しているものの、現在もM&Aの意志決定においてこうした心理的側面は影響しているようだ。とくに、8割以上の経営者が「従業員の雇用維持」を気にしていることを考慮すると、従業員に対する後ろめたさのような感情がM&Aの障壁になっていることが考えられる。

 だが、過去にM&Aを実施した企業(買い手企業)に対し、売り手企業の従業員の雇用継続について状況確認したところ、8割以上の企業でM&A実施後も全従業員の雇用を継続している。人材や技術・ノウハウの獲得を目的にMAを実施する企業が多いことからも、M&Aを実施した後も売り手企業の従業員の雇用が継続されるケースは多いようだ。白書では、「従業員の雇用継続を重視する売り手企業においては、買い手企業のM&Aの目的も見極めつつ、交渉の過程において、従業員の雇用継続の希望を明確に伝えていくことが重要と言える」としている。

 今回の白書の説明により、M&Aに対するイメージが買収・売却(譲渡)ともに向上していること、また、事業承継対策だけでなく、事業の成長・発展や事業再生を目的としてM&Aを検討する中小企業が増えていることが確認できた。

 こうしたM&Aに対する意識の変化を踏まえ、白書では最後に「事業承継は、企業が更に成長するための転換点と言える。M&Aもまた買い手・売り手双方にとって企業の成長につながる機会と言える。事業承継やM&Aを通じて、これまで企業が培ってきた経営資源を有効活用し、我が国の中小企業がさらなる成長・発展を遂げることを期待している」と結んでいる。

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