ハズレ馬券の税務処理 東京高裁で納税者が逆転勝訴! 結論は再び最高裁の判断へ
2016/07/22
このところ、ハズレ馬券の必要経費性をめぐる税務訴訟が相次いでいるが、「雑所得か、一時所得か」が争われ、納税者が敗訴した事件(東京地裁平成27年5月14日判決)の控訴審判決が今年4月21に出され、納税者の主張のとおり雑所得とする逆転判決が言い渡された。これを不服とする国側は上告をしており、最終的な判断は最高裁に委ねられることとなった。
■ 地裁判決の概要
本事件は、納税者が具体的に馬券の購入履歴や収支に関する資料を保有しておらず、レース毎に馬の能力、騎手(技術)、コース適性などに、JRAの各競馬場のコ一ス形態からレース傾向を分析し、各コース別に設定した係数を加えることにより個別の予想を行って勝ち馬を予想し馬券を購入していた。
これに対して、東京地裁は、ハズレ馬券の扱いをめぐって雑所得とする納税者の主張を認めた平成27年3月10日の最高裁判決と同様の視点から、「馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいて」馬券の購入を行っていないため、納税者の主張は失当であるとして納税者の主張を斥けていた。
■ 高裁は払戻金の回収率に着目
納税者は、控訴審でも原審と同様の主張を行っている。これに対して東京高裁は、馬券の購入代金に対する払戻金の期待値の比率(期待回収率)に注目。その値は通常では100%より小さい値となるとし、恒常的に利益を得ることはできないものの、本事件の納税者は独自のノウハウに基づき長期間にわたり多数回かつ頻繁に馬券を網羅的に購入して、現実に100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を上げていた(平成17年から22年に約72億7,000万円の馬券を購入して5億5000万円超の利益を獲得)。
この事実より、一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有していると判断。納税者の所得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として恒常的に利益を得ていることから、地裁判決を覆し、雑所得に該当すると判示した。
■ 最高裁判断で通達の再改正も?
本判決だが、先の最高裁判決で示した判断基準である「馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいた機械的な購入の仕方」によらなくても、高い回収率を得ている納税者の独自のノウハウを用いた購入方法を評価しており、最高裁判決よりも広い射程をとっている。
この控訴審判決に対して、最高裁がどのような判断を下すのか――。その結果によって国税庁は再度の通達改正を余儀なくされることも想定されるため、最高裁での行方が気になるところだ。
■ 事業所得を巡り新たな争いも
上記とは別に「一時所得か、事業所得か」の争いに対する判決が本年3月4日に東京地裁で出されている。本事件では、馬主でもある納税者が、馬主であることを生かした豊富な情報量と、競争成績分析、血統分析による馬の実力・適性の把握により馬券を購入していたと主張している。
この主張に対して裁判所は、①納税者の購入方法には具体的ノウハウは伺えないことから一般の愛好者と同程度のものである、②納税者が平成20年から22年の間に馬券に投じた2億6,000万円に対して7,000万円の損失が生じている点に着目し、生活費の大部分は、他の給与所得により賄われていた――との観点から、所得税法27条に規定する事業所得の要件「対価を得て継続的に行う事業」には該当しないとして納税者の訴えを斥けた。
納税者は本判決を不服として控訴している。