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平成29年度税制改正大綱の注目ポイント ~資産課税~

2017/01/26

<非上場株式等に係る納税猶予制度の緩和>
 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度は、平成25年度に大幅な改正が行われたことにより(適用は平成27年から)、その制度の適用が著しく増加したことが経済産業省の資料で明らかになっています。

 平成25年度に大幅な改正が行われたことから、しばらく改正はないものと思われていましたが、その後も若干の改正があり、平成29年度はかなりの部分で緩和措置が設けられることになりました。
 平成29年度の主な改正は、「要件の緩和」と「生前贈与の促進」の2点になります。
 まず、「要件の緩和」は、「セーフティネット規定の創設」と「雇用確保要件の見直し」です。「セーフティネット規定の創設」とは、災害などで納税猶予制度の要件を満たさなくなっても、引き続き猶予が継続又は免除されることをいいます。具体的には、①災害による資産の被害が大きい会社、②従業員の多くが属する事務所が被災した会社、③災害や主要取引先の倒産などにより売上高が大幅に減少した一定の会社について、雇用確保要件の緩和などが行われます。また、「雇用確保要件の見直し」とは、従業員の少ない小規模事業者に対する配慮をいい、具体的には、従業員5人未満の企業の従業員が1人減った場合に80%を下回っても(4人⇒3人(75%)・3人⇒2人(67%)・2人⇒1人(50%))、雇用要件を満たすものとされることになります。
 次に「生前贈与の促進」ですが、「相続時精算課税制度の併用」と「切替要件の見直し」です。「相続時精算課税制度の併用」とは、取消時の税負担の不安を軽減することをいい、具体的には、贈与税の納税猶予の適用を受ける株式について、相続時精算課税の適用を可能とすることにより、高額の贈与税を負担せず相続税の負担で済むように改められます。
 また、「切替要件の見直し」とは、意欲のある中小企業者の成長を支援するため、生前贈与後に贈与者が死亡し、相続税の納税猶予に切替する際の適用要件である中小企業者要件・非上場会社要件を撤廃することをいいます。
 各種の見直しが予定されていますので、本制度の適用を検討している関与先には、その内容を伝える必要があります。

<相続税・贈与税の納税義務の見直し>
 国外財産における相続税と贈与税の納税義務の範囲について、3点見直しが行われます。
 まず、国内に住所はないが日本国籍はある贈与者と受贈者の双方が、5年超国外に住んでから贈与するなどの租税回避を抑制するため、国内に住所がない期間の基準が「5年以内」から「10年以内」に延長されます。
 次に、国外で出生し日本国籍を取得しなかった子に対し、一時的に国外に住所を移した上で国外財産を贈与するなどの行為を想定し、国内に住所・国籍がない者が、過去10年以内(今までは5年以内)に日本に住所があった者から贈与などにより取得した国外財産が日本で課税されることになります。
 最後に、一時的に日本に住所がある外国人同士の相続などの場合に、国外財産に日本の相続税が課税されないようになれば、高度外国人材などの受入れ促進につながることから、住所が一時的な外国人については、その住所が日本にないものとみなすことにより、国外財産に日本の相続税などが課税されないようになります。

<居住用超高層建築物に係る課税の見直し>
 高さが60mを超える建築物を居住用超高層建築物といいますが、その居住用超高層建築物に対して課する固定資産税について、見直しが行われます(都市計画税も同様)。
 
今までは、まず居住用超高層建築物を一棟評価し、一棟全体の固定資産税額を計算し、その上で、各区分所有者の専有床面積によりあん分して、各住戸の固定資産税額を計算していました。したがって、高層階であっても低層階であっても床面積が同じであれば、固定資産税額は同じになっていました。
 しかし、見直し後は、一棟全体の固定資産税額は同様ですが、各住戸の固定資産税額を実際の取引価格の傾向を踏まえたあん分方法(階層別専有床面積補正率)により計算することになり、高層階であれば低層階と床面積が同じであっても、低層階と比較して固定資産税額の負担が増えることになります。
 なお、不動産取得税についても同様の見直しが行われます。

<相続税等の財産評価の適正化>
 相続税等の財産評価について、相続税法の時価主義の下で、実態を踏まえ「取引相場のない株式の評価」・「広大地の評価」・「株式保有特定会社の判定基準」などについて見直しが行われます。

 まず、「取引相場のない株式の評価」は、上場会社の株価の急激な変動などが、中小企業の円滑な事業承継を阻害することなく、中小企業の実力を適切に反映した評価となるように類似業種比準方式について、次の①から④の見直しが行われます。
①類似業種株価(A)について、2年間平均を選択可能にすることにより、上場企業株価の上昇局面における急激な変動が平準化されます。
②比準要素(C,D)について、連結会計上の数字に見直しすることにより、上場企業の子会社を含めたグローバル経営が反映され、過大な評価が見直しされます。
③比準要素(B,C,D)のウエイトを「1:1:1」とし、利益3倍を見直しすることにより、成長・好業績企業の負担が軽減されます。
④会社規模の判定基準の見直しにより、併用方式の類似業種の割合(L)が高まることになり、時価純資産(含み益)が重い中会社の株価を抑える効果が期待できます。
 
次に、「広大地の評価」は、面積に応じて比例的に減額する今までの評価方法から、各土地の個性に応じ面積・形状に基づき評価する方法に見直すことにより、実際の取引価格と相続税評価額の乖離が解消されるとともに、適用要件の明確化が図られます。

 最後に、「株式保有特定会社の判定基準」には、新株予約権付社債が含まれていませんでしたが、新株予約権付社債は株価と連動して価額が形成されることから、今後は上場株式と同様に判定基準に含められることになります。

(解説:中島孝一税理士)

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