税務の勘所Vital Point of Tax

事故物件の相続税評価めぐる争い 審判所 10%評価減の適用認めず

2026/07/29

 賃借人が居室内で死亡し、長期間発見されなかった賃貸住宅、いわゆる「事故物件」を相続した人が、相続税評価額の10%評価減を求めて国税不服審判所(以下、審判所)に審査請求をした事案が情報公開により明らかになった。事故物件の敷地が相続税評価上の「利用価値が著しく低下している宅地」に該当するかが争点となった(令和7年12月1日裁決、他の争点は割愛)。

事故物件とは?

 不動産取引において、しばしば問題となる事故物件。そもそも事故物件について法律上の明確な定義はないが、一般には自殺や孤独死など人の死が発生し、その事実や特殊清掃等の実施により心理的な抵抗感を生じさせ、不動産取引に影響を及ぼす物件をいう。

 国土交通省が令和3年10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、人の死が住宅の売買や賃貸借における取引判断に影響を及ぼす可能性があることを前提に、宅地建物取引業者の告知義務の考え方を整理している。

著しく利用価値が低下とは?

 このように、人の死が不動産取引に影響を与える可能性があるのであれば、相続税評価においても減額要因となり得るのかが問題となる。

 その際に論点となるのが、いわゆる相続税評価における「10%評価減」の取扱いだ。10%評価減は、付近の土地の利用状況と比較して著しく利用価値が低下している土地に適用される。国税庁のホームページでは、次のような例示を挙げている。

①道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
②地盤に甚だしい凹凸のある宅地
③震動の甚だしい宅地
④上記①から③までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの

 もっとも、国税不服審判所の過去の裁決によれば、適用が認められるためには、次の3要件を満たす必要があるとされている。

(1)こうした減価要因が路線価または固定資産評価額・倍率に反映されていないこと
(2)現に減価要因が生じていること
(3)この減価要因により実際に取引金額に影響が生じていること

10%評価減を求めた背景

 問題となった土地は、相続開始日において、賃貸共同住宅の敷地として使用されていたが、賃借人はいなかった。

 相続人によると、平成30年7月から8月頃、この共同住宅の賃借人が居室内で死亡していたことが、異臭を感じた近隣住民からの通報により発覚したという。この建物では特殊清掃こそ行われなかったものの、異臭の発生という事実が近隣住民の記憶に残っていることから、相続人は国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を踏まえ、取引の際にはこうした事情の告知が必要となる物件に当たると考えた。

 そのうえで、この土地は「忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの」に該当し、利用価値が著しく低下しているとして、令和6年7月に更正の請求を行い、相続税評価額の減額を求めた。しかし、税務署はこれを認めなかったため、相続人は審判所に判断を求めることとなった。

審判所の判断

 審判所はまず、「更正の請求を基礎付ける理由の立証責任は請求人にある」との考え方を示した。そのうえで、10%評価減の取扱いの適用を受けるためには、「忌み施設が存することなどの事情による宅地の取引金額への影響が、宅地の減額評価を正当化する程度に具体的なものであり、この影響が宅地の評価に用いる路線価において考慮されていないことを要するというべき」ことを示した。

 これを踏まえ審判所は、相続人が賃借人の死亡により土地の利用価値が著しく低下していることを示す客観的な証拠を提出しなかったことを指摘。

 また審判所は、国土交通省のガイドラインは宅地建物取引業者が取るべき対応を取りまとめたものであり、その内容に当てはまるからといって、直ちに相続税評価上の10%評価減が認められるものではないとした。

 さらに、相続人は、賃借人の死亡が土地の価額にどのような影響を及ぼすのか、合理的な説明をしていないと判断。

 その結果、賃借人が居室内で死亡し、その事実が近隣住民からの通報により発覚したという事情のみでは、「土地の取引金額への影響が、減額評価を正当化する程度に具体的なものであるとは認められない」として、10%評価減の適用を認めなかった。

 心理的瑕疵が不動産の取引価額にどの程度影響を及ぼしているかを立証することは、一般に容易ではないといわれる。国土交通省のガイドラインでも、「不動産取引における人の死に関する事案の評価については、買主・借主の個々人の内心に関わる事項であり、それが取引の判断にどの程度影響を及ぼすかについては、当事者ごとに異なる」とされている。

 過去にも、「忌み等」を理由に10%評価減の適用が争われた事案がある。例えば、相続税評価の対象となった土地に近接して墓地があったケース。評価対象の土地の三方が墓地に囲まれた事例では、審判所が適用を認めている(平成18年5月8日裁決)。一方、相続税評価の対象となった土地(賃貸住宅と駐車場)の近隣に墓地があった事例では、審判所は「墓地の存在が宅地の取引金額や賃貸状況に影響していることを具体的に認めるに足りる事情はうかがわれず、審判所の調査によっても、墓地の存在が土地の取引金額に影響しているというべき具体的事情は認められない」と指摘。「忌み施設である墓地の存在が隣接宅地の取引金額に影響する一般的抽象的可能性は否定できない」としながらも、10%評価減の適用を認めなかった(令和3年8月30日裁決)。

 今回の裁決も同様に、事故物件であること自体ではなく、それが土地の取引価格にどの程度影響しているのかを具体的に立証できるかが判断の分かれ目となったといえそうだ。

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