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税務の勘所Vital Point of Tax

親の土地を無権代理で売買契約 引渡し前に相続開始で税金トラブル

2023/07/24

 疾病により意思の確認が困難な状態にある親が所有する土地を、子が無権代理で売買契約した直後、親が亡くなり相続が発生した。この時、親の土地は買主に引渡す前で、「売買契約中の相続」だったことから、税務当局と相続財産の判定をめぐりトラブルになった事例がある(国税不服審判所・令和4年10月4日裁決)。

 この事例のポイントは、相続税の課税価格に算入すべき財産は「土地」か、それとも土地の「売買代金請求権」なのか、という点だ。

 土地の売主側は、契約上、土地を引き渡す代わりに金銭の給付を受ける。そのため、相続財産として課税対象になるのは、土地の「売買代金請求権」と考えることができるが、この事例では、土地の売買契約中に相続が発生しており、買主への土地の引き渡しは行われていない。そうなると、相続発生時における相続財産は、親が所有する「土地」と考えることもできる。

 土地が相続財産となれば、路線価で相続税を計算するが、売買代金請求権が相続財産となれば、土地の含み益が加わった売買代金により相続税が課税される。そのため、無権代理で契約した相続人らは「売買契約は無効だった」として、土地等を相続財産として相続税を申告した。

 しかし、税務当局は、無権代理で行った契約について、相続にともない相続人に承継・追認され、売買契約は相続の開始時において有効に成立していると認定。相続税の課税対象は売買残代金請求権として相続税を計算すべきとして追徴したことで争いになった。

 そもそも民法では、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じないとの規定(第113条第1項)がある。

 ただ、今回の事案では、売買契約を追認または拒絶する権利を行使することのないまま被相続人本人が死亡しているため、国税不服審判所は、被相続人の共同相続人による売買契約を追認または拒絶する権利の行使について、次のように検討した。

 ①無権代理人が、被相続人本人の持つ無権代理行為を追認または拒絶する権利について、他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認または拒絶する権利は、その性質上、相続人全員に不可分的に帰属する。本来は共同相続人全員が共同して追認または拒絶する権利を行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない。
 ②しかし、相続人は全員で売買契約を追認または拒絶する権利を行使することのないままに、遺産分割協議を成立させ、その結果として、無権代理をした相続人等は土地等の所有権を相続により取得した。
 ③無権代理行為を追認または拒絶する権利は、一般的にはそれ自体が独自の財産的価値を有するものとはいえず、また、この事案の売買契約の対象たる土地等の所有権の帰属から離れて追認または拒絶する権利を独自の相続対象とすることは、いたずらに権利義務関係を複雑にするもので相当でない。
 ④「無権代理をした相続人ら」は、売買契約を追認または拒絶する権利も土地等の所有権とともに、相続により取得したものとみるべき。
 
 これらを踏まえ審判所は、被相続人の無権代理人として締結した売買契約について、被相続人の死亡後、買主との間で交わした「売り主の地位を被相続人から承継したとする」覚書で追認したものと認められ、民法第116条に規定するとおり、追認は別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずることとなるから、売買契約は、被相続人が亡くなる前の無権代理で契約が行われた日に遡って有効であったと認定した。

 そして、「相続の開始の時において、売買契約の履行が、相当程度確実になっていたものと認められることから、相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等ではなく、売買残代金請求権であると認めるのが相当である」と判断、税務当局の追徴を支持した。

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