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税務の勘所Vital Point of Tax

当局 評価通達6適用で「待った!」 裁判でも納税者敗訴が相次ぐ

2021/05/20

 相続税の増税が実施された平成27年に前後して相続税の節税ブームが到来し、税務当局ではこれに対抗すべく、ここ数年、行き過ぎた節税に目を光らせている。とくに最近は、相続財産の評価に当たり「財産評価基本通達」による評価額では実勢価格に比べて低すぎるとして、税務当局が不動産鑑定評価額などで評価する「評価通達6」を適用したことで裁判になるースも出てきたが、この適用を支持する判決が続いたことで、今後の税務調査への影響が注目されている。

 相続税の財産評価とは、相続税が課税される土地や建物などの財産をどのように評価するか、すなわち経済的価値をどのように見積もるかがポイントとなり、これは法律上、第一に財産を取得した時の時価(相続税法22条)が物差しとなる。しかし、実務上とくに税法で評価の定めがあるもの以外は、国税庁の定めた「財産評価基本通達」に基づいて経済的価値を見積もることができる。

 ただ、それでも「財産評価基本通達」によって評価することが「著しく不適当と認められる場合」がある。その場合は、財産評価基本通達に従わない「特別の事情」があるケースとして、不動産鑑定評価など他の評価方法によることができる定めが用意されている。それが「財産評価基本通達6」である。当局はこれを駆使する方向で調査部隊に指示していたようだ。

①東京高裁令和2年6月24日判決
<事案の概要>
 東京・神奈川の賃貸不動産を相続税対策として購入。その3年後開始した相続で財産評価基本通達通りに賃貸不動産を評価して申告したところ、鑑定評価額で更正処分等をされ裁判になった事例(2審東京高裁令和2年6月24日判決・納税者敗訴、最高裁へ上告)。

ア、被相続人は、相続開始3年半前に都内の共同住宅(A不動産という。)を約8億3700万円で購入、金融機関から6億3000万円を借り入れていた。また、相続開始前2年半前に神奈川県の共同住宅( B 不動産という。)を約5億5000万円で購入、金融機関から3億7800万円、親族から4700万円借り入れていた。

イ、被相続人は平成24年6月に死亡。相続人は平成25年3月、財産評価基本通達に従いA不動産を約2億円、B不動産を約1億4000万円と評価して相続税の申告をした。

ウ、所轄税務署は平成28年4月に、AB不動産の価額は評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、国税庁長官の指示に基づきA不動産につき収益還元法による収益価絡を標準に求めた鑑定評価額7億5400万円、B不動産につき収益還元法による収益価絡を標準に求めた鑑定評価額5億1900万円として相続税の更正処分等をした。

<裁判所の判断の概要>
 一審の東京地裁は特別の事情があるかどうかに関し「A、⑵通達評価額は、それぞれ鑑定評価額の約4分の1(A不動産につき約2 6 .53%、B不動産につき約25.75%)の額にとどまっている」と指摘。「不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づき算定する不動産の正常価格は、基本的に、当該不動産の客観的な交換価値(相続税法22条に規定する時価)を示すものと考えられることなどから、AB不動産の通達評価額が相続開始時におけるAB不動産の客観的な交換価値を示していることについては、相応の疑義があるといわざるを得ない。AB不動産の相続税法22条に規定する時価は、鑑定評価額であると認められる」とした。東京高裁はこの一審判決を支持した。

②東京地裁令和2年11月12日判決
<事案の概要>
 相続直前に15億円の賃貸住宅を15億円の借入で購入して相続税対策を行い、財産評価基本通達に基づき約4億7千円と評価して申告したところ、税務署から賃貸住宅の鑑定評価額10億4千万円との間に大きな乖離があり、特別な事情があると認められるとして相続税につき鑑定評価額で更正処分をされて争いになった事例(東京地裁令和2年11月12日判決、納税者敗訴)。

ア、被相続人は亡くなる直前の6月ごろに肺がんであることが判明。被相続人は7月に本件不動産を15億円で購入する契約を締結し、同年8月20日C銀行から15億円の融資を受けることができたため、物件の引渡しを受けた。

イ、被相続人は、平成25年9月16日に8 9歳で死亡。相続人らは、相続税の法定申告期限内の平成26年7月にこの不動産を財産評価基本通達通に基づき約4億7千円(土地約3億4千万円、建物約1億3千円)と評価し、15億円を債務として申告した。

ウ、所轄税務署長は、平成30年5月に相続人らに対して問題の不動産は評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、国税庁長官の指示に基づき鑑定評価額10億4000万円(土地8億3000万円、建物2億1000万円)を基に更正処分等をした。

<裁判所の判断の概要>
 裁判所は次のような認定をした。「問題の不動産につき通達評価額は4億7761万1109円、鑑定評価額10億4000万円と比較すると、その2分の1に達しておらず、金額としても5億円以上の著しいかい離が生じている」。

 「相続開始時の約2カ月前である平成25年7月25日に本件被相続人自身が本件不動産を購入した際の価額である本件売買価額は、鑑定評価額を上回る15億円であって、本件通達評価額と本件売買価額との間にはさらに著しいかい離が発生している」。

 「通達評価額と鑑定評価額との間に上記のような著しいかい離が生じており、これによって課税額に大幅な差異が生じていること自体、通達評価額によって時価を算定することが適切でないことをうかがわせるものということができる」。

【評価通達6の適用ポイント】
 評価通達6適用事案で典型的なものといえば、平成4年3月11日の東京地裁の判決がある。これは相続直前に8億円弱のマンションを購入し、通達評価で相続税申告をするとともに、8億円弱で同マンションを売り抜けた事案である。裁判所は「被相続人が相続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に右不動産が相続人によってやはり当時の市場価格で他に売却され、(中略)不動産がいわば一種の商品のような形で一時的に相続人及び被相続人の所有に帰属することとなったに過ぎないとも考えられるような場合についても、(中略)実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難い事態を招来することとなる場合がある」として、評価通達6の適用を認めたものだ。

 最近の2事例と合わせて総括すると、問題の不動産の通達評価額と時価レベルとの間に著しいかい離があれば評価通達6の適用があることは共通している。また、相続後の売却、相続直前の不動産取得では、①の事案は一方の物件を売却しているが、この行動はかえって時価ベースの取引価額を明らかにしてしまうほか、②の事案のように相続直前に不動産を取得することについても価額のかい離をあらわにする点も同様といえる。いずれにしても行き過ぎた節税が見え見えの事案は要注意といえるだろう。

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