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税務の勘所Vital Point of Tax

賃貸住宅を「用途問わない」で転貸契約 消費税還付を狙った「仮装」か否か?

2024/01/22

 新築賃貸住宅を取得した投資家が、その建物の転貸上の契約において「用途を問わない」としたことは、建物の仕入れにかかった消費税の還付を狙った「仮装」として重加算税等が課せられたことを受け、その取消しをめぐる争いが発生したが、国税不服審判所は重加算税等を取消す判断を下した(令和5年8月7日裁決)。

 裁決書によると、納税者である個人投資家Aは、建物2棟を新築し、自身が代表を務める不動産管理会社B社を通じて、新築を請け負った建設会社関連の別の管理会社C社へ転貸した。

 ここで問題となったのは、投資家AからB社に貸付けをする際、契約上「賃借人の用途については、居住用及び事業用を問わない」とし、用途を住宅と特定しない覚書をしたことだ。

 投資家Aは、この転貸の売上について「貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」(令和2年度税制改正前の消費税法別表第1第13号)に該当しないと判断。建物の取得に係る消費税(地方消費税含む。以下同じ)数千万円と見られる金額を仕入税額控除して平成29年5月までに申告した。

 ところが、申告から5年経過後、もともと住宅の仕様で建てた建物なのに用途不特定の契約等をしたことは、消費税を不正還付するための「仮装」に当たるとして、税務署が仕入税額控除を否認。重加算税も含めて追徴したことで、投資家Aが国税不服審判所(以下、審判所)に審査請求して争うこととなった。

争点は次の3つ。

⑴ 問題の建物の貸付が、非課税取引である「住宅の貸付け」に該当するか否か。

⑵ 投資家A(請求人)に、重加算税が課される「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(通則法第68条第1項)。

⑶ 投資家Aに、更正期間が7年となる「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(通則法第70条第5項第1号)。

▍審判所の判断

 審判所はまず、問題の貸付けが消費税の非課税取引となる「住宅の貸付け」に該当するかどうかの判断基準として、「貸付けに係る契約書の契約条項だけでなく、当該契約締結に至る経緯をはじめ、建物の種類・用途や関連する契約の定め等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当」とした。

 そして、これをもとに、今回の事実関係について次のように指摘している。

1、建物の新築時の注文書から、建物2棟は「居住用」として転貸することが予定されていた。

2、投資家AとB社との間で交わされた契約では、賃貸借する建物の用途についての定めはなく、追加的な合意事項が記載された覚書では建物の用途について「居住用及び事業用を問わない。」と記載されるにとどまる。

3、投資家Aは建築工事請負契約に際し、C社との間で居住用のプランである旨および転貸借を目的とする一括賃貸借契約の案内を受け、後日契約している。

 これにより審判所は、「建物の貸付けは、各賃貸借契約において建物が管理会社の再転貸先により居住の用に供されることが明らかにされているものであると認められるから、(中略)非課税取引となる」と判断した。これに対し投資家Aは「令和2年度税制改正後の規定の「当該貸付け等の状況からみて」から判断しており、更正処分は改正法令を遡及適用した処分」だと反論した。同税制改正では、以下のカッコ書き(下線部)が追加されている。

 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)(消費税法別表第1第13号)

 しかし、審判所は、問題の建物の貸付けが「住宅の貸付け」になるとの判断は「令和2年度税制改正前の規定に基づいている」として、Aの反論を突っぱねた。裁決書では触れていないが、財務省の解説によれば、この改正は「契約においてその用途が特定されていないなどの場合も考えられるため、契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合の判断基準を明確化する」ことを趣旨としている。つまり、「改正前の判断基準」の中身がより明確化したことになるわけだから、審判所の判断も無理はないといえそうだが、改正趣旨を先取りした改正前別表の解釈には異論もありそうだ。

 次に、争点2・3の覚書に「居住用及び事業用を問わない」と記載したことが仮装行為・不正の行為に該当するかについて、審判所は「該当しない」と判断した。その理由を次のように指摘している。

4、住宅の貸付けに該当するかどうかは貸付けに係る契約書の契約条項だけでなく、諸般の事情を総合考慮して判断するため、「居住用及び事業用を問わない」との記載が、建物の貸付けの実体とは異なっていたとしても、そのことから、請求人(A)が(中略)故意に事実をわい曲する行為に及んだと直ちに認めることはできない。

5、Aが消費税等の還付を受けることを目的として覚書を作成した可能性は否定できないが、事実をわい曲する意図がAにあったとまでは認めることはできず、事実を偽るために覚書に当該記載をしたと認めるに足る証拠はない。

 なお、この事案は令和2年度税制改正前の争いだ。それまでは、賃貸住宅を取得した際の消費税還付について様々な節税策が工夫されてきた。しかし、同改正により、国内において行う居住用賃貸建物の取得にかかる消費税は仕入税額控除の対象外とされ、その居住用賃貸建物とは「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって一定のもの」とされた。したがって、同改正の適用される物件は、この事案のような問題が新たに起こることはないだろう。

 ただし、国税通則法70条では、税務署長の更正・決定等のできる期間は申告書提出期から原則5年間とされているが、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合は更正できる期間は7年間とされている。そのため、今回の事案のように仮装が疑われるケースは、現時点においてまだ国税当局の調査の射程内に入っているといえそうだ。

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