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税務の勘所Vital Point of Tax

トラブル多発! 賃貸不動産めぐる消費税還付の裁判

2019/04/25

消費税は、事業者が売上でもらった消費税から仕入れに係った消費税を控除して、納める税額または還付する税額を計算する仕組みだが、賃貸住宅の仕入れでかかった消費税の還付をめぐり、最近、東京地裁で複数の税金裁判が行われて注目を集めている。

消費税還付スキーム

 以前、課税事業者となって賃貸住宅を新築する前に、清涼飲料の自動販売機などで消費税の売り上げをたて、建物の消費税を還付するというスキームが横行した。そのため、これを封じるために数次の税制改正が行われてきたが、最近では、消費税の課税売上をたてる手立てとして“金地金取引”が注目されている。

 最近事件となったケースも、この金地金取引を利用したものだが、争点となったのは、次の課税期間で引渡しが行われる賃貸住宅について、引渡し前の課税期間中における賃貸住宅の売買契約の効力発生日を「課税仕入れを行った日」とし、賃貸住宅にかかる消費税を控除対象仕入税額とすることが認められるかどうかという点だ(東京地裁2019年3月14日判決、3月15日判決、いずれも控訴)。

 不動産業者Aは、会社分割により新設分割され、短い消費税の課税期間中に金地金取引を行い、課税売上をたてる一方、賃貸住宅の取得に関する契約の効力発生日を、賃貸住宅の建物の「課税仕入れを行った日」として消費税の還付を受けようとした。しかし、実際に賃貸住宅を引き渡したのは、翌課税期間だったため、そこを当局が問題視したわけだ。事実関係は次の通り。

①納税者(不動産業者A)は、平成25年11月5日に、合同会社Bの新設分割により、不動産の賃貸借及び所有・管理・利用を事業目的として設立された、決算日を11 月30日とする不動産賃貸業を営む資本金100万円の株式会社である。
②合同会社Bは、平成24年6月1日に設立された決算日を 6月30日とする法人。合同会社Aは平成24年6月12日に、貴金属販売会社から金地金を863, 350円で購入し、同月13日にその全量を857, 400円で売却した。
③不動産業者Aは、平成25年11月14 日に貴金属販売会社から金地金を44, 580 円で購入し、同月20日にその全量を42,750円で売却。
④不動産会社Aの平成 25年11月5日から同月30日までの課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額は、上記③の金地金の売却に係る金額のみ 。
⑤不動産業者Aは、平成25年11月15日に、売主との聞で、本件売主が所有する土地とその土地上に建つ鉄筋コンクリート造陸屋根13階建の共同住宅、建物付属設備及び構築物を売買代金9億7千万円で売買する契約を締結し、同日、本件売買契約の効力は発生した。
⑥本件売買契約書の主な関連条項は次の通り。
(イ)買主は、売主に売買代金を平成25年12月 2 日までに支払う(第5条)。
(ロ)所有権は、売買代金の全額が支払われたときに買主へ移転する(第6条)。
(ハ)本件不動産から発生する賃料・共益費の収益等に関しては、本件不動産の引渡日をもって区分し、引渡日以後は買主に帰属する(第14条)。
⑦不動産業者Aは、本件課税期間に属する平成25年11月15日付で、本件不動産の譲受けに係る各取引について、未払金勘定を相手科目として本件不動産を資産計上するなどの経理処理をした。
⑧不動産業者Aは、平成25年12月2日に、本件売主に対して、本件不動産の売買代金を支払い、同日、本件不動産の所有権は本件売主から不動産業者Aに移転した。

 不動産業者Aは、このように処理して引渡し前に「課税仕入れを行った日」として還付するための消費税申告をしたところ、当局から、課税仕入れのあった日は引渡し基準を原則とする理由などから否認されたのだ。

審判所と裁判所の判断

 国税不服審判所の審査請求では、不動産業者Aは、消費税法基本通達11-3-1《課税仕入れを行った日の意義》で、「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受けをした日をいうのであるが、これらの日がいつであるかについては、別に定めるものを除き、同通達第9章《資産の譲渡等の時期》の取扱いに準ずる旨定められていること、これを受けて同通達9-1-13《固定資産の譲渡の時期》では、固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とするとされ、その「ただし書」では、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認めるとされていることを指摘。

 そのうえで、不動産業者Aは、「本件通達は、一般の会計慣行を尊重し、これとの調和を図るとともに、所得税や法人税における取扱いとの統一性を保持するとの観点から、譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときはこれを認めるとしたものであり、その文理からしても、当局が主張する『引渡しの事実関係が外形上明らかでない場合』といった条件の下、例外的にただし書の適用があると読むことはできない」などと主張。裁判でも概ね同様の主張を繰り返していた。

 これに対して東京地裁は、「課税仕入れを行った日」について「課税資産の譲渡等による対価を収受する権利が確定した日をいう」としたうえ、権利の実現が未確定な場合にまで契約の効力発生日をもって「課税仕入れを行った日」とすることは認められないと判断。不動産業者A社の主張を退けている。

 ちなみに、国税不服審判所では、課税仕入れを行った日について「消費税が物品とサービスの「消費」に課税することを目的とするものであり、固定資産の譲渡は固定資産の引渡しをもって消費税の対象である「消費」 に該当することから、固定資産の譲渡等の時期に準じて、当該資産の「引渡しがあった日」を原則とするものと解される」とし、「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合には、本件通達ただし書を適用しないとする余地があるというべき」と判断していた。

 なお、不動産業者Aは、通達のただし書き「譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときはこれを認める」とあるのを信じて申告したのに認められないのはおかしい、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある、として信義則違反の問題を争点としている。

 これに対し、東京地裁の別のコートでは、「代理人として関与した税理士(スキームの主導者)が課税仕入れを行った日の認定を誤っただけ」で、当局の更正処分等が信義則違反になるとは言えないとする説示をしたものもあり、スキーム主導者側には厳しい判断が下されている。

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