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税務の勘所Vital Point of Tax

判例から学ぶ税理士損害賠償責任 ~その1~

2018/11/01

(1)事案の概要
 本件は、X1、X2が、Xらが役員を務めるなどしている複数の会社の顧問税理士であったYに対し、Xら個人所有の不動産の売却、買い替え等についての税務に関する相談をしたところ、居住用不動産買換特例の適用等についてのYの誤った説明により、税務署からの更正処分等を受けたとし、債務不履行等に基づき、損害賠償を求めた事案です。

 裁判所は、契約関係が認められた税務相談についても、Yは、Xらからの情報の正確性を検証するまでの義務は負っておらず、Yの回答も直ちに誤りとも言えないなどとし、Xらの請求を棄却しました。

(2)裁判所の判断
①XらとYとの間の税務顧問契約の有無(否定)

 裁判所は、「過去にYが無償でXらの税務相談に応じたことがあるものの、その回数が多いわけではなく、かつ、その多くはYと税務顧問契約がある会社との関係がある事柄の税務相談であること、Xらは、本件における乙不動産の売却を踏まえたXらの確定申告についても、Yに委任することなく行っていることからすると、直ちに、XらとYとの間で包括的な税務顧問契約が成立していたと認めることはでき」ないとして、税務顧問契約の成立を否定しました。

②XらとYとの間の委任契約の有無及びその内容(契約の有無:肯定)
 「乙不動産の購入に関する居住用不動産買換特例の適用に関して、XらとYとの間で、その一般的な制度の説明及びXらが乙不動産の購入に際して、Xらから相談されるスキームについて、居住用不動産買換特例の適用の有無を回答することを目的とする税務相談を受けることについての委任契約が成立していたと認めることができる」と判断しました。
 その判断にあたり、裁判所は、①Yが行った居住用不動産買換特例を利用する旨の提案はXらが甲不動産の売却に当たって損益通算に関するBの回答に苦情を伝えてきたことを踏まえての提案であったという経緯、②BがYの指示により、複数の税務署に居住用不動産買換特例の適用についてXらが実行可能な内容での問い合わせをしていること、③スキームの変更(借入先の変更)による居住用不動産買換特例の適用の有無について問い合わせを受けた際も、Yは断ることもなく、税務署に問い合せたうえで回答していることを摘示しています。

③乙不動産に関する居住用不動産買換特例の適用に関するYの誤った説明の有無(否定)
 「本件においては税務申告はXらが自ら行うこととなっており、上記税務相談に関する報酬は定められていないこと、具体的なスキームについてはYが主導的に提案をしていることをうかがわせる証拠もないことからすると、Yの義務は、Xらから受けた情報を前提に居住用不動産買換特例の適用の有無を検討するに止まり、Xらから受けた情報の正確性を検証するまでの義務は負っていないものと解するのが相当である」と判断しました。 なお、居住用不動産買換特例の適用についての回答については、適用要件等を検討したうえで、Yの回答も直ちに誤りであることにはならないと判断しました。

(3)予防策
 実務上、オーナー経営者個人に関する税務相談につき、無償で応じざるを得ない場合も多々あると思います。しかし、無償であっても、税理士としての専門家責任は免れません。そこで、税賠リスクを最小限にするために、相談を受ける範囲を特定するなど、通常、第三者から税務相談を受ける場合と同様に、対応する必要があります。


アドバイザー/堀 招子 弁護士

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