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税務の勘所Vital Point of Tax

判例から学ぶ税理士損害賠償責任 ~その2~

2018/11/13

(1)事案の概要
 個人で医院を経営していたAは、Aの顧問税理士であったYに、医院の法人化について相談し、医療法人であるXの設立に際し、AがYに対し、Xの設立手続の一部についての事務を委任する契約を締結しましたが、YがX設立時における節税のための指導等(資産総額を1000万円未満とすることについての指導等)を怠ったことによりXに税務上の損害を与えたなどとして、XがYに対し支払済みの税額相当額等の損害賠償を請求したという事案です。
 裁判所は、Yの誤った税務指導により、Xにおいて2期分の消費税を支払ったという損害などが生じたとして、XのYに対する損害賠償請求の一部を認めました。

(2)裁判所の判断
①Xの資産総額について正しく説明・指導する義務(肯定)
 
まず、裁判所は、「Xの設立の主な目的は節税であった」と認定し、そうであるとすれば、「Aから相談を受け、設立手続の一部に協力する旨の本件契約を締結したYとしては、その目的に沿うよう、Aに対し、資産総額についても正しく説明・指導する義務があった」として、Yに、資産総額について正しく説明・指導する義務があることを認めました。


②上記①の義務違反の有無(肯定)
 Yの資産総額についての説明・指導の事実について、Xは、Yが上記①の義務を怠ったと主張したのに対し、Yは、X代表者Aが「資産総額だけでも他のクリニックに勝ってブランド化したい。」「設立から2期分の消費税の免税が受けられなくとも、課税される消費税が経費となるならそれでかまわない。」などと述べて、資産総額を1億円超とした旨の主張をしました。

 しかし、この点について、裁判所は、Yが、Xの設立から数年後、Aから資産総額と消費税との関係について指摘を受けた際の電話でのやり取りから、その当時、「消費税については、Xは個人経営から法人成りした経緯から、2期分の免除の適用はない旨、誤った認識に基づく回答をし、設立の際に正しい説明をしたことや、Aの強い希望で資本金額を1億円以上としたことについては全く触れなかった」と認定し、また、他にYがX設立の際に正しい説明をしたことを示す客観的証拠もないことなどから、Yは、X設立時にも同様の認識を持っており、それに従った説明・指導をしたと認定しました。
 また、Xが「設立から2期分の消費税の免税が受けられなくとも、課税される消費税が経費となるならそれでかまわない。」などと述べて、資産総額を1億円超としたという主張に対しては、「そもそもX設立の目的は節税であり、Aがそれに反する行動をとることは考え難いことにかんがみれば、同証拠は不自然で信用できず、Yの前記主張は採用できない」と述べました。
 これらの事情から、Yは上記①の説明・指導義務に違反したとして、債務不履行責任を認めました。 

(3)予防策
 本件では、損害額につき、損益相殺(債権者が損害と同時に利益も得た場合に、その利益を損害額から控除すること)がなされたため、一部認容の判決となりましたが、責任につきましては、税理士の全面的な説明指導義務違反が認められました。
 本件は、税賠訴訟でよくある説明義務のある事項に関する「言った、言わない」の争いになりました。税法の理解は大前提ですが、後で紛争になった場合に備えて、説明した内容や、それを依頼者が理解したうえで決定したことがわかる確認書等の書面やメールなどを残しておくことが有益です。特に、一般的には採用しないであろう選択をする場合には必須といえます。
 消費税については、設立時、関与時の説明・確認事項につき、比較的、定型化しやすいことから、説明漏れ等を防止するため、チェックリストなどを活用することも有益です。

 アドバイザー/堀 招子 弁護士

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