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税務の勘所Vital Point of Tax

東京高裁 税務当局の「低額譲渡」認めず 関連会社への自社株譲渡

2018/11/26

 東京高裁は、都内の製造業者が相続税対策のために行った関連会社への自社株譲渡が『低額譲渡』ではなかったとして、税務当局の更正処分を取り消す判決を下した(平成30年7月19日)。

 これは、昨年、東京地裁で確定した自社株の評価額をめぐる事件(相続税事件)に関連する事案。昨年の相続税事件とは、平成19年に非上場会社A社の代表取締役が亡くなり、その配偶者(以下、Bさん)らが取引相場のないA社株式を取得。相続税の申告に当たり、A社株式を配当還元方式で評価して1株75円で申告したところ、税務署から類似業種比準方式により1株2,292円で評価すべきとして更正処分等を受けたことから争いとなったものだ。この事案についてはBさん側が勝訴している(平成29年8月30日判決・確定)。

 今回取り上げる事件は、A社代表取締役が相続開始直前、自分が保有する自社株(15.88%)のうち725,000株(議決権割合7.88%)を関連会社C社に譲渡しており、その評価額を相続税事件と同様に1株当たり75円( 配当還元方式による評価額)、合計54,375,000円としていたところ、税務当局は、類似業種比準方式による評価額(当初2,990円、異議申立後2,505円)の2分の1に満たないことから、所得税法59条1項2号の『低額譲渡』に当たるとして、類似業種比準方式の評価額に引き直して更正処分等を行ったことで、亡きA社代表取締役の納税義務を承継したBさんらとの間で争いとなった。

 低額譲渡の判定にあたり、その基礎となる株式譲渡時における株式価額の評価方法として、①所得税基本通達59-6の(1)の条件下における評価通達 188 の議決権割合の判定方法や、②株式譲渡における譲渡代金額をもって時価といえるかどうかが主な争点となった。

 所得税法59条1項2号は、著しく低い価額の対価として政令で定める額による法人への譲渡については、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなすと規定されている。この場合の低額譲渡の範囲は「資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする」(所得税法施行令169条)とされている。

低額譲渡の判定における資産価額
評価対象は譲渡後か、譲渡直前か?

 ここで問題になるのが「資産の譲渡の時における価額」だ。株式の価額について所得税基本通達59-6では、上場株や気配相場のある株式、取引相場のない株式などの扱いを定めた所得税基本通達23~35共-9「株式等を取得する権利の価額」の取扱いに依拠するとされている。このうち取引相場のない株式については、一定の条件の下、相続税の財産評価について定めた「財産評価基本通達(法令解釈通達)の178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の例により算定した価額とする」とされており、実務でもこの経路を通って低額譲渡になるかどうかの判定が行われている。当然、評価方法により低額譲渡になる金額も変わってくるが、上記の一定の条件の中で、配当還元方式が適用される株主判定についての条件は次の通りだ。


 所得税基本通達59-6 (1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

 また、財産評価基本通達188では、「同族株主以外の株主等が取得した株式」を4パターン定めており、それに該当する場合は配当還元方式で評価することになる。具体的には次の通り。


(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式(以下略)
(2)中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式(以下略)
(3)同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
(4)中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式(以下略)

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審の東京地裁は、譲渡所得課税の趣旨について、過去の最高裁判決を引き合いに「資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益(キャピタル・ゲイン)を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算してその譲渡人である元の所有者に課税する趣旨のものと解される」から、「低額譲渡の判定をする場合の計算の基礎となる当該資産の価額は、当該資産を譲渡した後の譲受人にとっての価値ではなく、その議渡直前において元の所有者が所有している状態における当該所有者(譲渡人)にとっての価値により評価するのが相当」とした。


 この結果、東京地裁は、「財産評価基本通達188(1)~(4)の各定め中の(株主の)取得した株式」とあるのを「(株主の)有していた株式で譲渡に供されたもの」と読み替えるのが相当であり、また、「各定め中のそれぞれの議決権の数も当該株式の譲渡直前の議決権の数によることが相当であると解される」として、結局、譲渡直前の譲渡人(亡きA社代表取締役)の議決権割合によって『配当還元方式の適用ができない株式』になるとの判定を支持している。

 また、譲受人が少数株主であれば、その取得株式の経済的価値を前提として取引されるため、譲受人の議決権数により配当還元方式が適用されるかどうかが判断されるべきとするBさん側の反論について、東京地裁は、「譲受人が取得した株式が少数株式にとどまるからといって、譲渡人が所有していた状態における資産としての株式の価値を、当該譲渡により分割された後の少数株式の状態で評価することは、(中略)譲渡所得に対する課税の趣旨に反することになる」としていた。

通達の文言の読み替えによる内容が異なった運用は許されない

 しかし、東京高裁は、低額譲渡の判定に当たり、所得税基本通達59-6の(1)が妥当するのは文字通り同通達に書き込まれている財産評価基本通達188の(1)だけで、「188(2)から(4)は「取得した株式」等の文言があり、株式譲渡後の譲受人の議決権割合を述べていることは明らか」と指摘。


 そのうえで東京高裁は、税務当局の主張のように解釈するためには通達の読み替えを要するとしたうえで、「租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべき」で、通達は租税法規ではないが租税法規の解釈適用の統一に重要であり、納税者の予見可能性を確保する見地からも「通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして運用することは許されない」と判断。譲渡を受けた関連会社は少数株主であるとして配当還元方式の適用を認め、Bさんらの主張を認容した。

 当局は高裁判決を不服として最高裁に上訴している。昨年の相続税事件ではBさんら側が勝訴しており、また、今回の事件はいわば通達の不備を突かれたともいえるだけに、今後の行方がどうなるのか気になるところだ。

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