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税務の勘所Vital Point of Tax

小規模宅地等の特例 『減額効果』だけを求めた節税に規制の網

2018/03/09

 平成30年度税制改正大綱(以下、大綱という)の中で、相続税の分野では「小規模宅地等の特例」について、貸付事業用宅地等に対する適用要件を厳格化し、『減額効果』だけを求めるような節税を防止する対策が盛り込まれた。

 大綱によると、「貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で、貸付事業を行っている者が当該貸付事業の用に供しているものを除く)を除外する」とされている。

 この改正は、相続した宅地を貸付事業用宅地等として特例の適用を受けるに当たり、改正前に比べて大きな制限となるのは明らか。今後、相続開始直前に収益不動産を購入して節税するといった対策に一定の歯止めをかけることになりそうだ。

 特に、「相続前3年超」「事業規模」といった縛りが導入される点は注意したい。このうち、小規模宅地等の特例において事業用宅地等に関して不動産貸付につき「事業規模」判定基準が導入されるのは、昭和63年度税制改正以来のこと。その後の平成6年度税制改正で特例が抜本的に改組された際に、いったん姿を消していた。

 「事業規模」の概念については、大綱でははっきりと示されていないが、昭和63年度改正と同様に所得税の不動産所得における事業規模の判定基準を借用するものだとすれば、いわゆる貸家5棟、貸室10室という外形的基準を事業規模判定に用いることが考えられる。

 現行の所得税基本通達26-9では、「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべき」ものとしているが、特に反証がない限り「(1)貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること」の基準を満たせば「事業規模」と判定される。このほか、土地の貸付がある場合には、1室の貸付けに相当する土地の貸付件数を「おおむね5」として判定するという取扱いもある(東京国税局所得税 消費税 誤りやすい事例集)。

 ただ、個人が事業規模で不動産貸付を行っているかどうかをめぐり、平成の当初、税務署と相続人が争う税務トラブルが多発。その後、都心立地のビル事業で貸室3室をもって事業規模と認めた裁判の判例が出るなど、現場が混乱したこともあった。こうした歴史的経験をどのように生かすか、今後の改正法案・改正政令等での具体化が注目されるところだ。

 小規模宅地等の特例は、被相続人の居住していた宅地のほか、アパートなど貸付事業、自営業のための宅地について、相続税の計算上、課税価格に算入する課税価格を一定面積まで50%~80%減額する税制上の特例だ。その政策目的は、居住や事業を継続する相続人の生活基盤となっている財産については処分しないで済むように守ること。

 というのも、相続税制は当然に個人の財産を処分して納税する事態も視野に入れた制度だが、この税制で生活に困る人が出てしまっては、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利などを規定している憲法などの趣旨に反するためだ。貸付事業用宅地等に限って言えば、相続人が生活基盤である貸付事業を「継ぐ」ことが、特例により「守られるべき」ものになるわけだ。

 ところが、国税庁では、以前から相続開始直前に高額な貸付不動産を購入して、特例を適用することにより貸付不動産の敷地の課税価格を減額し、相続税の申告後に貸付不動産を売却するといった単に特例の「減額効果」だけを求めるようなケースに目をつけていた。 現に、国税庁が財務省に具申している「税制改正意見」の平成28年度版では、独自の節税封じ案を出していた。その案とは、相続税の申告後3年はその財産を保有することを適用要件に加えるというものだったが、実現はしなかった。

 こうした中、国の会計のお目付け役である「会計検査院」が先ごろ公表した「租税特別措置(相続税関係)の適用状況等について」によると、相続した土地等につき申告後3年を経過するまでに譲渡し、譲渡収入金額が高額な人2,907人を抽出検査したところ、相続人が相続税の申告期限の翌日から1年以内に貸付事業用宅地等を譲渡していたケースが110件あったと指摘。特例の政策目的にかなっているかどうかの分析等が政策立案の段階で不十分ではないかと疑問視する報告書をまとめている。

 今回の改正は、こうした問題意識を背景に行われるものと見てよさそうだ。

 なお、大綱によると、この改正の適用については「平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用する。ただし、上記の改正は、同日前から貸付事業の用に供されている宅地等については、適用しない」とされている。とはいえ、節税策に乗ったばかりに、不動産投資をめぐる経済変動で資産規模を棄損するようなことになれば、まさに本末転倒であるのは言うまでもない。

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