文書回答 信託終了で取得した残余財産は相続・遺贈による取得に該当せず
2023/02/10
東京国税局はさきごろ、「信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る租税特別措置法第35条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否」に関する事前照会に対し、「特例の適用を受けることはできない」という文書回答を行った。
照会者(受託者)は、母親(委託者兼受益者)との間で、母親の居住用家屋とその敷地(以下、本件物件)を信託財産とする信託契約を締結し、受益者の死亡を信託終了事由としていた。その後、母親の相続開始により本件信託は終了。残余財産となった本件物件は、その帰属権利者である照会者およびその弟に帰属することとなった。
照会者らは、母親の相続開始の翌年に本件物件を譲渡したが、今回照会した内容は、譲渡所得の計算上、租税特別措置法第35条第3項《居住用財産の譲渡所得の特別控除》に規定する特例(以下、本件特例)を適用するに当たり、本件物件が本件信託の残余財産として照会者らに帰属したことは、同項に規定する取得に該当すると解し、そのほかの要件を満たす限りにおいて、本件特例の適用を受けることができると解してよいかというものだ。
これに対して東京国税局は、「特例の適用を受けることはできない」という見解を示した。その理由だが、信託契約などにより信託の受益権を取得する行為や、信託が終了して残余財産が権利者に移転した場合などは、法律上の「贈与」または「遺贈」には該当しないが、実質的には贈与や遺贈と同様の効果をもたらすことから、相続税法においては、これらの取得または移転などは贈与または遺贈による取得とみなして相続税や贈与税の課税対象とする措置が講じられている(相続税法第9条の2)。
この点、本件特例は、例えば措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》に規定する特例のように、相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含む旨は規定していない。
また、本件特例は、相続人が相続により、その意思の如何にかかわらず、被相続人居住用家屋等の適正管理の責任を負うこととなることを踏まえた趣旨の下、適用対象者を相続人に限定し、かつ、「相続または遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした場合に限り適用すると規定したものと考えられるが、信託終了による残余財産の取得は法律上の相続または遺贈には当たらず、受託者(照会者)は信託行為の当事者であること、信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183③)を踏まえると、本件特例の趣旨の下では、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続または遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではないと考えられる。
よって、委託者兼受益者の相続開始という信託終了事由の発生により信託が終了したことで、それに係る残余財産を帰属権利者が取得したことは、本件特例に規定する相続人による「相続または遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」に該当するとは認められず、また、死因贈与契約に基づき当該残余財産を取得したとする事情も認められないことから、本件特例の適用を受けることはできないとの見解を示している。