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税務の勘所Vital Point of Tax

令和5年度税制改正大綱 インボイス制度の変更点を解説(下)

2023/01/30

税込1万円未満の取引等に事務負担の軽減措置を創設

 今般創設される事業者の事務負担軽減措置の一つが、税込1万円未満の対価の返還等に係る返還インボイスの交付義務免除制度です。改正の背景にあるのは、実務界でその処理方法を巡って喧々諤々となっている振込手数料の取扱いがあるようです。

 そしてもう一つが、少額取引に係るインボイスの保存不要制度です。基準期間における課税売上高が1億円以下である事業者(基準期間における課税売上高が1億円超であっても、特定期間における課税売上高が5000万円以下である者を含みます。)は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの6年間は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても、帳簿の保存のみで仕入税額控除が行えることになります。

 課税売上高1億円以下の事業者からすれば、確かに税込1万円未満の取引について、インボイスとそれ以外の請求書等の仕分けが不要となることから、事務負担が軽減されることになります。ただ、課税売上高5000万円以下の事業者の多くが簡易課税制度を適用しています。簡易課税制度適用事業者については、もともとインボイスの保存は不要ですから、これらの事業者についてはまったく恩恵がありません。また、課税売上高が5000万円を超える事業者については、ある程度の経理能力があります。ましてや顧問税理士がついているケースが多いと思いますので、中小企業というよりもむしろ、我々のような税理士事務所にとって恩恵が大きいのかもしれません。

 なお、ここで少し気がかりなのが、顧問税理士がいないような売手側の小規模事業者が、「うちは、税込1万円以下の取引しか行わないから、インボイスの準備はしなくていいんだ」というような勘違いをしないかということです。

 買手側の課税売上高が1億円以下であれば、理論上、売手側はインボイスの交付を求められないのかもしれません。

 ただ、通常の場合、売手側が相手の売上規模を確認するのは困難であり、売上金額は常に変動します。課税売上高が1億円以下の顧客しかいないとはっきり分かっているのであれば別ですが、そうでなければ、この特例があるなしにかかわらず、基本的にはインボイス交付の準備を進めることになります。

 特に、現状、免税事業者である事業者については、注意する必要があります。買手である取引先の意向も確認しないで、高をくくって登録を行わないというのは危険すぎます。しっかりと相手方の意図を確認して交渉すべきです。この特例はあくまでも買手側の特例であると考えるべきです。

 このようなことを見てくると、本当の意味での事務負担軽減措置なのか疑問が残ります。いたずらに制度を難しくしているように思えてなりません。

 このほか、登録申請手続き等の見直しとして、15日ルールができます。免税事業者が課税期間の初日から登録を受ける場合や登録事業者が翌課税期間の初日に登録の取消しを行う場合には、当該課税期間の初日から起算して15日前の日が申請・届出期限となるなど、申請手続き等に関して所要の見直しが行われます。

 最後に、今回、これだけの施策を盛り込んだということは、インボイス制度を予定通りに導入するということに他なりません。一部、制度導入の延期や廃止の声も上がっているようですが、制度導入に向け待ったなしの状況が整ったことになります。引き続き、実務界は粛々と準備を進めていくことになります。

 アドバイザー/渡辺 章 税理士

  渡辺章税理士がインボイスを開設するYouTube動画はこちら(2020年11月公開)
  https://www.youtube.com/channel/UCPxPcgLNAL1sh0yKoK4_NmA

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