東京都 VS 保険外交員 最高裁「保険募集業務は代理業」 個人事業税めぐる争い
2026/11/06
生命保険外交員が歩合給で行っていた保険募集業務が、個人事業税のかかる「代理業」に該当するかどうかで争っていた裁判で、最高裁第三小法廷は7月22日、個人事業税を課税された外交員らの上告を棄却した。これにより、同業務が代理業に該当するとした東京高裁の判断(2025年10月2日判決)が維持されることになった。
今回の裁判に至った経緯は次のとおり。
生命保険募集人の登録を受けていた原告ら保険外交員は、生命保険会社との間で契約期間を1年間とし、「専業の生命保険募集人としての仕事を行うこと」などを任務としていた。その対価として「歩合制報酬の支払を受けることを約する旨の契約」または「営業社員再雇用契約」を締結して業務を行っていた。
外交員らは令和3年または令和4年頃まで契約を更新しており、収入金額(歩合制報酬)に係る事業所得等について、令和3年分の所得税等の確定申告書などを提出していた。
東京都の渋谷都税事務所長らは、外交員らの業務が個人事業税の課税対象である法定業種「代理業」に該当するとして、令和4年に令和3年分の個人事業税を賦課。さらに翌年には、令和4年分の賦課も行った。これらの課税を不服とした外交員らは、不服審査請求を経て、裁判を起こした。
主な争点は、①代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」に当たるか否か、②使用人が行う同様の業務が「代理業」に当たるか否か。
東京都が策定した事務提要では4つの要件から「代理業」を判断
こうした「代理業」の解釈が争点となった背景には、東京都が策定した「個人事業税課税事務提要(通達)」(平成24年8月1日付24主課課第153号東京都主税局長通達。以下「事務提要」という)がある。総務省の取扱い通達を下敷きにしたもので、法の定める「代理業」について、次のように解釈・規定し、運用していた。
(1)一定の商人のために(原則として特定の者のために)、(2)反復継続して行われ、(3)取引を代理し、又は媒介する、(4)独立した事業であると認められること。
その上で「個人事業税にいう代理業は、通常は、自らが支配、管理することのできる営業所を有し、営業費を支出し、自己の活動形式と労働時間を決定して、そのなした行為について手数料を歩合的に受け取っているものであること。身分的従属関係のみを重視し、実質的に自己の責任において営業行為とみなし得る収支計算を行っている者に対して課税しないことは、課税の均衡を失することとなるため、十分調査を行うこと」としていた。
一審の東京地裁は、地方税法72条の2第8項で第一種事業として「代理業」(23号)などが限定的に掲げられている一方、「代理業」の定義が特段規定されていないことを指摘。「商法(同法1条)の規定を整合的に解釈することが相当」として、商法27条を参照した。
事業性については、最高裁昭和56年4月24日判決を踏まえ、「「代理業」とは、自己の計算と危険において独立して反復継続的に営まれる事業であって、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のために、その平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をするものであると解するのが相当」とした。

そして、争点①「代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」に当たるか否か」について、外交員らは、代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」に当たると解することは、地方税法の規定の文言を離れて解釈するものであり、租税法律主義などに反すると主張した。これに対して東京地裁は、「「代理業」の文理解釈に当たって商法の総則の規定である同法27条を参酌することは、当然に許されるものと解される」と判断。
また、争点②「使用人が行う上記業務が「代理業」に当たるか否か」については、「商人の使用人が使用人として行う業務が「代理業」に当たる場合があるとしても、そのことをもって、文理解釈として不合理であるなどということはできない」として、外交員らの主張を退けた。
原審の東京高裁も、こうした東京地裁の判断を適法とした。控訴審で外交員らは、商法27条によれば「代理商」は商人の使用人ではないものとされているところ、外交員らは生命保険会社の使用人であり、給与所得者ではなく事業所得者としてみなす慣行に従って申告しているだけで、生命保険会社の使用人であることは否定できないなどと主張した。
これに対し東京高裁は、「使用人であるからといって、その行う事業が「代理業」に該当することが直ちに否定されるものではない」として、生保外交員の上記業務が代理業に該当するとの判断を支持した。
その後、外交員らは最高裁に上告したが、最高裁第三小法廷は7月22日、上告を棄却。保険外交員の業務が「代理業」に該当するとした東京高裁の判断が維持されることとなった。
群馬県でも「代理業」めぐりバトル 判定基準13項目のうち8項目該当
同様の事例として、群馬県でも保険外交員への個人事業税の課税をめぐる争いがあった。令和8年5月7日の裁決によると、この外交員は外交員報酬や代理店としての代理報酬を受け取っており、事務所などを自ら用意し、家賃や水道光熱費などの経費も自己負担していた。
同外交員は、業態などは変わらない中、これまで課税されていなかったにもかかわらず、支払調書の報酬項目が「保険代理報酬」となったのに伴って課税されたのは不当だとして、処分の取消しを求めて審査請求を行った。
群馬県の審査庁は、同県では総務省の取扱い通達により「雇傭関係の有無はその契約内容における事業の収支の結果が自己の負担に帰属するかどうかによって判断する」とされていることなどを確認。また、旧自治省が昭和36年に示した代理業等判定基準案を基に、①報酬支払の方法が歩合制、②事務所、店舗、自動車等を自己の名義で所有(賃借)している、③勤務時間等が拘束されていない――など13項目の判定基準を設けており、その上で、「報酬支払の方法」、「営業所等の所有(賃借)および営業費の分担関係」、「活動形式と労働時間の拘束関係」の3要素を網羅し、かつ、判定項目の過半数を占める場合に「代理業」としていることを整理した。
これを踏まえ審査庁は、この外交員が判定基準13項目のうち8項目に該当し、報酬の支払方法、営業所・営業費の負担、労働時間の自由度などの3要素も満たしているとして「代理業」と認定。過年度分については、課税対象所得が事業主控除額290万円以下だったため課税されなかったにすぎないとして、県税事務所長の処分を支持した
今回の最高裁決定は、今後、こうした他の自治体における「代理業」の判定にも影響を及ぼす可能性がありそうだ。