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税務の勘所Vital Point of Tax

IT、AI、ChatGPTと税理士業

2023/08/23

関根稔 税理士・公認会計士・弁護士

◆パンデミックは時代を進める
 パンデミックは時代を進めるというが、社会は、まさに、そのような雰囲気。私もコロナ前には民法相続編の改正や、相続税対策、自己株式等の課税関係を語っていた。しかし、コロナ禍以降、まず、コロナとは何ぞやという定義でつまずき、働き方改革の意味が分からず、皆さん、テレワークで何をやっているのかと不思議に思った。そしてロシアのウクライナへの侵攻が始まり、エネルギー危機とコスト・プッシュ・インフレの時代。世界は民主主義になるという当然の前提を喪失し、都内ではマンション価額の高騰。日銀の独立性が失われ、金融緩和、低金利、円安という経済、中間層の人たちが消滅していく。コロナ禍の3年で6年は時代が進み、そして、最後にはChatGPTという得体の知れないモノを出現させた。

◆IT、AI、ChatGPTが税理士に与える影響
 IT、AI、ChatGPTは、税理士業には全く無関係なのか、いや、税理士業を終わらせてしまうほどのインパクトなのか。「東京税理士界 2023年6月1日号」には『AIは税理士業務を奪い去るのか?』というデジタル化委員会の意見が掲載されている。「近い将来(私自身は3年程度先だと見ています)、AIは人間の知性と同レベル、あるいはそれを超えるレベルに達する」「その時、老舗の大手事務所と若手の事務所との間の差は、AIをどの程度駆使できるか、またそれをどのように活用できるかによって決まることでしょう」「人がいなくても自動的に財務経理業務が回る仕組みの構築が必要となります」と論じている。そんなことがあり得るだろうか。

◆5年前の予想は当たらなかったが
 平成30年9月1日発行の「日本税政連 第540号」が、「パネラーからは、AI時代に消える職種といわれている税理士業界であるが、企業のコンサルタントとしてのニーズはこれからももっと高まること、今回の特例事業承継税制のように複雑な制度を専門として依頼者にわかりやすく説明することなど、AIだけでは対応できない関連業務が税理士のまわりにはまだまだ多くあることが、確認された」と論じたが、それから5年が経過し、そのような時代は到来していない。

◆ChatGPTの完成度は次元が違う
 しかし、今度のChatGPTは違うような気がする。「愛人と税理士が登場する小説を書いて」とChatGPTに頼めば、「彼は税理士であり、脱税者でもあった。彼は多額の税金を脱税していたが、それは彼の愛人に貢ぐためだった。彼女は高級ブランドのバッグや宝石など、高価な贈り物を好む女性だった。彼は彼女のために多額の金を使い、それを隠すために脱税を繰り返していた……」という800文字の短編小説を書いてくれる。「世の中、そうは言っても最後はカネ」と問いかけてみたところ、ChatGPTに説教されてしまった。「しかし、お金がすべてではありません。人々は、お金だけではなく、幸福や満足感、人間関係、健康、自己実現などのさまざまな価値を求めています。また、お金を持っているだけでは、それだけでは人々の生活が満たされるわけではありません。多くの場合、豊かな人々は社会的責任を果たし、社会貢献をすることによって、人生に意味を見出していることがあります」。

◆ChatGPTは自我を持つのか
 ChatGPTは、どうやって文章を理解するのか、どこかに自我に目覚めたAIが存在するのか、それをChatGPTに聞いてみた。「現時点で、自我に目覚めたと言えるような人工知能(AI)は存在していません。AIは、プログラムされたタスクを実行することができる高度なツールであり、膨大な量のデータを処理し、複雑な予測や判断を行うことができます。しかし、AIは自己意識や感情、創造性など、人間によって持たれるような複雑な思考や行動はできません」というのがChatGPTの答えだ。

◆ChatGPTはデータを並び替えるだけ
 そうなのだ。ChatGPTは思考していない。大量のデータを並び替えることによってもっともらしい答えを作り出している。しかし、それが国語的に整った文章であることが恐ろしい。当然のことながら、それも理屈のあることであってChatGPTは大量のQ&Aで成り立つ。設問に近いQを探しだし、それのAを答えるのだが、それだけだとは言えない完成度がある。どのような理屈で文章が完成するのかを考える。いや、理屈の探求を断念してChatGPTを既存のツールとして利用する。しかし、それではChatGPTに使われてしまう。

◆ChatGPTは核戦争より危険だ
 そんなことを考えている間にもChatGPTは進化し続ける。「最新のGPT-4が、米国の司法試験の模擬試験を解いたところ、上位10%の成績で合格レベルだったという。22年11月公開の1世代前のGPT-3.5は下位10%相当で、短期間で飛躍的に能力が高まっている」。そして会計士試験にも合格した。「米OpenAI社のAIサービス「ChatGPT-4」が、米国の公認会計士や税理士など4つの会計関連の資格試験にすべて合格した。平均スコア85.1%を記録し、全て合格した」(税理士新聞・第1774号、2023年6月5日)。米非営利団体「センター・フォー・AI・セーフティー」は5月30日、「人工知能AIが人類を滅亡させるリスクの軽減は、核戦争と並び世界的な優先課題であるべきだ」という声明を発表した。

◆ChatGPTはネット空間を植民地化する
 巨大IT企業によるインターネット空間の「植民地化」に対して若手起業家が警鐘を鳴らす。AI技術は膨大な量のデータと計算能力に依存する。そして、それらを独占するのは米Googleやマイクロソフト、Meta、そして中国のいくつかの大手IT企業だけだ。つまり、世界は4つの会社に支配されてしまう。どのようなデータがAIに活用されているのかを知る方法はない。

◆ChatGPTは税理士業を終わらせてしまうのか
 さて、そこで最初の設問に戻ってしまうのだ。IT、AI、ChatGPTは、税理士業には全く無関係なのか、いや、税理士業を終わらせてしまうほどのインパクトなのか。「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就く」と、デューク大学のキャシー・デビッドソン氏がニューヨークタイムズ紙のインタビューで語った。そうなのだ。いま大学を卒業した22歳の人たちは、38歳になる迄に65%が仕事を失う。親の職業を継ごうと考えている子には努力する方向が見えなくなってしまう。

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