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税務の勘所Vital Point of Tax

注目裁決 「伝家の宝刀」で節税策を否認! 被相続人が借入金で不動産購入

2018/05/07

 借入金で賃貸不動産を購入し、相続税のかかる財産を大幅に圧縮・節税した事案で、国税不服審判所が「財産評価基本通達に基づく評価では不適当」として、国税庁長官の指示する評価方法を採用した評価額を適正と認定した裁決事例が資産家や税理士らの話題を呼んでいる(平成29年5月23日裁決)。

 財産評価基本通達6項では、財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価すると定められている。この「伝家の宝刀」と言われる評価通達6項を適用した事案であること、また、相続人が相続した賃貸不動産を相続税申告後すぐに売却し、借入金を返済している事実関係の下で節税策が否認されたことも、この裁決に関心が集まっている要因のようだ。

 平成20年5月、被相続人は会社の代表としてR銀行に〇〇診断を申込み、孫の代まで事業を承継させたいこと、また、事業承継にともなう遺産分割や相続税の不安などを伝えた。翌年、被相続人はR銀行からの借入金で賃貸不動産を購入。平成24年6月に被相続人が亡くなり、相続人Aは同年10月、被相続人が購入した賃貸不動産について遺産分割協議を成立させ、当該不動産と債務を相続し、評価通達に定める評価方法で相続税を申告した。その後、相続人Aは、およそ取得価額と同程度の金額で不動産を売却している。

 一方の原処分庁は、「本件の通達評価額は、不動産の取得価額および譲渡価額、不動産鑑定評価額の30%にも満たない僅少なもので、著しい価額の乖離があり、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情がある」として、鑑定価格と同様の金額で更正したことから争いとなった。

 国税不服審判所は、被相続人が借入れを申込んだ際、融資担当者が作成した『貸出稟議書』には、「相続対策のため不動産購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった」などの記載があり、相続税の負担軽減を主たる目的として各不動産を取得したものと推認。

 そして、「被相続人や請求人らによる各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、被相続人が通達評価額と鑑定評価額との間に著しい乖離のある各不動産を借入金により取得し、本件申告において評価通達に定める評価方法で評価することにより、借入金の債務合計額が各不動産はもとより、ほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらす」と指摘した。

 その結果、「実質的な租税負担の公平を著しく害し、著しく不公平なもの(中略)。評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情があると認められ、本件各不動産の価額は、(中略)ほかの合理的な時価の評価方法である不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当」と判断している。

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