相続した不動産を相続直後に売却 路線価評価を下回っても減額認めず
2024/08/02
相続した不動産を相続直後に売却したところ、売却価額が路線価による相続税評価額よりも下回ること
がある。そこで、相続税の減額を求めて更正の請求を行ったものの、減額が認められず、国税不服審判所に
判断を委ねたが、そこでも不動産の売却価額が適正な時価だと認められることはなかった・・・そんな事例が令和に入ってから少なくとも3件ある。今回はそのうちのひとつ、令和3年5月11日の裁決事例を紹介する。
1.事案の概要
裁決書によると、相続人が相続したのは、用途地域が第一種住居地域(建蔽率60%、容積率200% )と近隣商業地域( 建蔽率80%、容積率300%)にまたがっていた借地権で、その形は路地状部分のある旗竿型だった。借地には貸家が建っていた。
相続人は相続税の申告において、この借地権を路線価により約7300万円と評価した。そして、相続して間もなく、この借地権を売却したところ、売却代金は5500万円だった。
相続人は、すぐに税務署長に対して相続税の減額を求めて更正の請求を行った。この請求について税務署長は、借地権が容積率の異なる2つの地域にまたがっていた点が反映されていなかったことを踏まえ、評価額を約6780万円に修正した。
しかし、「売却価額=相続税の課税上の時価」として認められず、相続人は国税不服審判所(以下、審判所という)に審査請求した。
2.審判所の判断
審判所は、路線価などに基づく不動産等の評価方法を定めた財産評価基本通達について「適正な時価を算定する方法としてー般的な合理性を有するものであり、かつ、当該財産の相続税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には、(中略)評価通達に定める評価方法によって評価するのが相当であり、評価通達に定める評価方法によって評価した価額が当該財産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができる」との考え方を示した。
ただし、この考え方は「評価通達に定める評価方法を画一的に適用することによって、当該財産の「時価」を超えて適正な時価を求めることができない結果となる場合など、評価通達に定める評価方法によるべきではない特別の事情がない」ことが前提であることも提示。
そこで審判所は、事例に即して、次のように「特別の事情」があるかどうかを検討した。
①形状に起因する減価要因が評価通達の定める評価方法では本件借地権の評価に反映されずこれが上記特別の事情に該当するか?
⇒ 評価通達では「土地の形状に起因する減価要因についても、評価する宅地が路線に接している状況、形状等に応ずる評価が行えるよう各種画地調整のための定めを設けることによって考慮している」。本件借地権については、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ定められた補正率を乗じて評価することにより、適切に反映されている。
②借地権上の建物の建替えに伴う建築承諾料支払要請や地主からの地代増額要請があることが、評価通達に反映されておらず特別の事情に該当するか?
⇒ 評価通達27の《借地権の評価》では、建築承諾料や地代の額も踏まえて決定される借地権の売買実例価額等を基として、一定の地域ごとに適用可能な借地権割合を定めた上、その借地権割合を用いて借地権の価額を算定するとしているため、そのような事情は、評価において考慮されている。
③売却価額が通達評価額を下回ることが特別の事情に該当するか?
⇒ 現実の売却価額は、譲渡時における譲渡当事者間の諸事情を反映して決せられるため、そもそも何らの事情補正等を行うことなく、直ちに客観的交換価値を表しているとみることはできない。現実の売却価額が通達評価額を下回っているというのみでは、通達評価額が時価を超えるものということはできない。
こうした検討プロセスから審判所は、特別の事情はあるとはいえないと判断している。
3.まとめ
このほか、令和5年10月24日裁決のケースでは、複数の不動産業者の中から最も高額で買い付ける業者を買主に選ぶ形式で決まった売却価額でも、相続税の課税上の時価とは認められなかった。こうした流れからも、税務署は契約にともない個別の事情がある不動産の売却価額をそのまま相続税の課税上の時価とはなかなか認めてくれないのが実情といえる。
だからこそ、路線価の評価額よりも低い価格でしか売れない不動産を相続する予定があり、相続後すぐに売却することが相続前から決まっているような場合は、相続後ではなく、相続前に売却を検討することもひとつの手だ。それにより、実際の不動産の金銭的価値が明確になり、相続税の評価が過大になるような懸念はなくなるだろう。
ただ、その際には、①生前に売った場合の譲渡所得税の負担と現金化による相続財産の縮小に基づく相続税負担の合計に対し、②相続後に売った場合の相続人の譲渡所得税(取得費加算の特例の適用)と不動産の相続税評価による相続税負担の合計を比べてみて、どちらが小さくなるかどうかも含めて検討したいところだ。