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税務の勘所Vital Point of Tax

小規模宅地等の特例 適用する宅地を間違えた!? 地裁は訂正認めず

2024/05/09

 小規模宅地等の特例を適用する相続税申告で、適用すべき宅地について事実誤認があって不利な申告をしてしまったことが分かり、納税者が税額を減額する訂正(更正の請求)を求めたところ、税務署が認めなかったことから争いとなった事案で、東京地裁は、事実誤認について計算誤りなど更正の請求の事由に当たらず、更正の請求は認められないとする判決を下した(令和6年1月25日、その他の争点については割愛)。

1.小規模宅地等の特例

 小規模宅地等の特例とは、生活の本拠である住宅や事業用地の承継をする場合に相続税が軽減される定番の特例。具体的には、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は表の通り(租税特別措置法69条の4第1項)。


2.事案の概要

 農家を継いだ納税者Aは平成31年1月、遺産分割協議により、自宅、納屋、倉庫などの建物とその敷地である宅地を取得し、相続税の申告期限まで同宅地を保有し、自宅、納屋、倉庫のほか、親族の自宅の敷地としても利用していた。

 Aは、もともと平成27年1月から建物に居住し、被相続人と同居して生活を共にしていた。また、Aは相続開始前から農業を営んでおり、相続税の申告期限までの間において農業を継続、納屋はAの営む農業のために用いられていた。その後、Aは申告期限までに相続税の申告書を提出した。

 Aが当初申告書に添付した「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」、「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(別表)」に記載した内容(要旨)は次のとおり。なお、当初申告書において、特定事業用宅地等につき75.00㎡と記載したが、これは相続した宅地のうち納屋の敷地に供されていた部分の面積だ。

(ア)特定事業用宅地等
a 特例の適用を受ける取得者の氏名□□[事業内容・農業]
b 所在地番 ●市〇町●番地他1筆の一部
c 取得者の持分に応ずる宅地等の面積、75.00㎡
d 取得者の持分に応ずる宅地等の価額 458万6174円
上記cのうち小規模宅地等(「限度面積要件」を満たす宅地等)の面積 75.00㎡

Aは修正申告後、令和3年になってから、次の点を改めるため所轄税務署長に対し「更正の請求」を行った。

ア、宅地に係る特例適用額に誤りがあったこと(具体的には、宅地のうち倉庫の敷地の用に供されている部分について当初申告などにおいては特定居住用宅地等に含めていたが、実際は特定事業用宅地等に該当し、それに含めるべきであったなどの事実誤認があり、特定事業用宅地等である選択特例対象宅地等の面積が実際には418.46㎡となるから、本件特例適用額の計算に当たっては、特定事業用宅地等の限度面積要件である400㎡を基に行うべきであること)

イ、宅地を含む複数筆の土地の価額に評価の誤りがあったこと

 これに対し、所轄税務署長は上記イの請求は認めたものの、アについては更正の請求を認めなかった。その理由は、Aは特定事業用宅地等として75㎡を、特定居住用宅地等として330㎡を選択する旨記載した当初申告書を提出し、また、当該選択に基づく課税価格の計算に誤りはないため、更正の請求により特定事業用宅地等について400㎡を選択することはできないというものだった。このため、Aは最終的に税務署を相手取って、倉庫部分の敷地を特定事業用宅地等として更正の請求を認めるよう裁判所で争うことになった。

3.東京地裁の判断

 東京地裁は、納税申告書を提出した者が、一定の期間内に税務署長に対し、その申告に係る課税標準等や税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨を定めた国税通則法23条1項の1号の趣旨について、「所得計算の特例、免税等の措置で一定事項の申告等を適用条件としているものについてその申告がなかったため、納付すべき税額がその申告等があった場合に比して過大となっている場合において、更正の請求という形式でその過大となっている部分を減額することを排除することにある」と解すべきとした。

 ところで、小規模宅地等の特例の租税特別措置法69条の4の第6項では、小規模宅地等の特例の適用を受けようとする場合、申告書に小規模宅地等の特例の適用を受けようとする旨を記載し、同規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限って適用することになっている。

 こうしたことから東京地裁は、「特例は、納税者が、当初申告またはその修正申告において、本件特例を受けるものとして当該特例対象宅地等またはその一部について小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類をもって選択した範囲で適用されるというべきであり、後になってこれを覆し、本件特例の適用を拡大する趣旨で更正の請求をすることを許さないこととしたものと解される」と、小規模宅地等の特例と更正の請求について整理した。

 これを前提に東京地裁は次のように指摘した。

「明細書等において、特定事業用宅地等に区分されているのは本件な屋敷地部分(75.00㎡)のみであり、宅地のその他の部分については特定居住用宅地等に区分されていることからすれば、明細書等において倉庫敷地部分が特定事業用宅地等として区分されていたと認めることはできない。したがって、当初申告および本件修正申告において、措置法69条の4第3項1号所定の特定事業用宅地等として倉庫敷地部分を選択したものとは認められないから、倉庫敷地部分につき、同号所定の特定事業用宅地等として本件特例を適用するための要件が満たされているとはいえない」。

 そして、A主張の「更正の請求の理由は、本特例の適用範囲を拡大することを求めるものであると解するのが相当であるから、上記に説示したとおりの本件特例に係る規定の内容および趣旨に鑑みれば、国税通則法23条1項に基づき更正をすべき旨の請求をすることができる事由には該当しない」と判断した。

 つまり、東京地裁は今回の事案に対し、小規模宅地等の特例に関するいわゆる適用宅地の「選択替え」の問題として、当初に適法な申告をしたら、後で訂正できないものと同じと断じたわけだ。

 小規模宅地等の特例をめぐっては、宅地を選択して適法に申告したものの、異なる宅地を選択したほうが得だったと後になって気づくケースもある。昨年も、税理士による申告において、宅地の選択が誤っていたとして、相続人が税理士に損害賠償を請求した裁判で和解となった事案もあるだけに、宅地の選択には慎重さが求められるところだ。

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