財産は見られている!? 国による「監視網」強化の動き②
2017/06/21
3.各種調書の整備
マイナンバーでは把握しきれない財産等については、調書等の整備により、資産家の資産等のチェック体制が強化されている。たとえば「国外財産調書」。これは、国外財産に対する課税の適正化が重要な問題になっていることから、国外財産の価額の合計額が5千万円を超える国外財産の所有者に申告してもらう仕組みとして、平成26年1月から施行された。
国内では「財産債務調書」もスタートしている。これは「その年の総所得金額等が2000万円超であることのほか、その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が3億円以上であること、または、同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること」を基準としたものだ。
さらに来年(平成30年)1月からは、法定調書として新たな「保険契約者等の異動に係る調書」制度が施行される予定だ。これは保険契約者が死亡したことに伴い契約者を変更した場合、その保険会社等は変更の効力が発生した年の翌年1月31日までに「保険契約者等の異動に係る調書」を所轄税務署に提出することが求められるもの。この「保険契約者等の異動に係る調書」には、特に変更後の契約者の情報と、解約返戻金相当額の記載が求められる。生命保険等を活用した実質贈与についても税法の網がかかってチェックされることになる。
こうした一連の監視網の整備について警戒する向きもあるが、これらを逆手にとって個人の財産の生前整理、資産リストラなどのチェックに利用しようと考える者もいる。専門家の間でも、調書等の提出をサポートする中で、財産コンサルに繋げようとする動きも見られるようになってきた。
4.国際的な租税回避を抑制
国外財産調書やいわゆる出国税など国際的な資産の譲渡所得課税のほか、相続税や贈与税の租税回避を防止する規定がここ数年、矢継ぎ早に制定されている。平成29年度税制改正では、国外での資産の贈与等に対する相続税・贈与税の具体的な税目での租税回避抑制策が盛り込まれ、制度整備の最終段階を迎えている。
今回の改正は、国内に住所を有しない個人で、なおかつ日本国籍を有する相続人等に係る相続税の納税義務について、国外財産が相続税の課税対象外とされる要件を見直すものだ。具体的には、被相続人等及び相続人等が相続開始前5年以内のいずれの時においても国内に住所を有したことがない場合とされている現行の定めの「5年」を「10年」に延長する。この改正は、財産の贈与を受けた受贈者と、財産を贈与した贈与者についても同様で、平成29年4月1日以後に相続や遺贈、贈与により取得する財産に係る相続税・贈与税から適用となる。
国税庁によると、いわゆる武富士事件(当該会社の元会長が長男に贈与したオランダの持ち株会社の株式に関し1600億円の申告漏れを指摘された事件で、長男の住所が裁判で争点になり、結局、住所は香港にあると認定され、課税の取消しが最高裁で平成23年に確定)を機に、平成12年度に税制改正が行われ、それ以降の改正で現行の制度として上記の「5年」基準が設けられていたという。しかし、数次の税制改正でも防ぎきれない租税回避の手法が最近でも一般に紹介されているのが現状だと指摘している。
具体的には、「①親と子の双方が法施行地外に住所を移転するとともに、②法施行地内(国内)にある財産を法施行地外(国外)に移し、③法施行地外へ住所移転後5年を経過した後に、親から子へ法施行地外にある財産を贈与し、④贈与後に法施行地に住所を移転する」方法だ。特に有価証券、金融資産でこうした方法が実行しやすいと見られていた。そこで、今回の改正に至ったという。
国税庁では、新たな制度創設もにらんでいる。国際的な租税回避の恐れのある一定の取引に関する資料の保存義務や、税務当局への報告を義務付ける「租税回避スキーム報告制度」がそれだ。
国税庁が毎年の税制改正に向けて行っている提言によると、租税回避スキームの資料保存・報告が義務付けられるのは、取引の仲介者、取引の当事者となった納税者だ。報告義務に違反などした場合には、加算税や罰則などのペナルティを課す制度を設けるとしている。
国税庁は、①国際的な租税回避行為に対する諸外国の取り組みでは、アメリカ、イギリスなどにみられるように上記のような情報開示制度の導入が進んでいること、②BEPS行動計画(タックスプランニングの義務的開示、2015年)について最終報告書がまとめられていることなどを指摘。「我が国においても厳正に対処していく必要がある」とし、上記のような制度の導入により、「限られた人員の中での効率的な調査及び納税者に対する牽制効果が期待できる」としており、国際的な租税回避防止策の総仕上げに向けて動きだそうとしている。