2018年度の診療報酬と介護報酬 同時改定の影響を見通す!!
2018/06/26
2018年度は、診療報酬と介護報酬の同時改定が行われるが、関与先の医療機関や介護事業所等にどのような影響が生じるのだろうか。医療福祉介護業界の支援に特化した会計事務所をサポートしている㈱MMPG総研に主なポイントを解説してもらった。
【概要】
今般の診療報酬と介護報酬の同時改定は、地域差を伴う高齢化の進展や少子高齢化による急激な人口減少などの社会環境の変化をはじめ、生活習慣病が増加するなど疾病構造が大きく変化したことも踏まえつつ、高額で効果の高い医療技術などの技術革新と社会保障制度の安定性・持続可能性との調和などが求められる中での改定となりました。特に2018年度の改定は、6年に一度の診療報酬と介護報酬の同時改定となるため、2025年(団塊の世代のすべてが75歳以上になる)に向けた道筋を示す実質的に最後の同時改定となり、医療と介護の一体的な体制整備に関する項目が多く設けられていることが特徴的です。具体的な診療報酬と介護報酬の改定の大きな柱は次のように構成されています。
今般の同時改定は、多岐にわたり細部まで緻密に報酬や要件等が設定されているため、本稿ですべてを取り上げることはできませんが、その中でも医療機関や介護事業所等に与える影響が大きいと思われるものを中心に各論の概略について触れます。医療機関等の関与先を抱えている税理士の先生方も、将来への方向性が示された同時改定のポイントは押さえておきたいところです。
【新たな入院医療の評価体系】
入院医療については、特定の機能や対象患者が限定された入院料を除き、「基本的な医療の評価部分」と「診療実績に応じた段階的な評価部分」との二つの評価を組み合わせた新たな評価体系が導入され、①急性期医療、②急性期医療~長期療養、③長期療養――の三つの機能に大別されます。これにより地域の実態に応じた入院医療の機能が明確になることが期待されていますので、医療機関が目指す方向性と地域の医療需要や医療提供体制とのバランスを考慮しつつ、将来の医療ニーズの変化に柔軟に対応できる組織作りが重要になってくると思われます。
【療養病床再編成】
医療療養病床は改定により療養病棟入院料に一本化され、実績部分を加えて評価する二段階の入院料となります。要件を満たさない場合には経過措置(減算)が設けられていますが、経過措置とされた医療療養病床は病床のダウンサイジングや介護医療院等への転換などを検討する必要があります。特に転換先として関係者の注目を集めているのが新たに創設される介護医療院で、介護療養病床や医療療養病床からの転換先として介護報酬によるインセンティブが期待されていました。その介護医療院は今回概ね高い基本報酬が設定されており、転換支援策(加算や助成金など)も設けられています。ただし、介護医療院は要介護高齢者の生活施設としての機能を有する医療提供施設と位置付けられ、あくまでも機能の転換であることに留意が必要です。
【外来医療の機能分化】
大病院の外来は紹介患者を中心とし、一般的な外来受診は診療所等のかかりつけ医に相談するという流れがベースにあります。この流れを促進するため紹介状なしで受診した時に定額負担が徴収される対象大病院の範囲を拡大するとともに、診療所等のかかりつけ医機能を強化するため機能強化加算が設けられます。また、地域包括診療料の施設基準なども併せて緩和されていますので、かかりつけ医機能として評価されている診療報酬を確認しておくことが重要です。
【維持期・生活期のリハビリテーションの介護保険への移行】
医療保険での高齢者に対するリハビリテーションは1年間に限り経過措置が延長されます。これに伴い医療保険と介護保険のリハビリテーションを一つの医療機関等で実施しやすいよう、人員配置や面積要件等が緩和されます。特に医療保険と介護保険のリハビリテーションを同一のスペースで実施しやすくなりますので、その実施体制の組合せなどもポイントになると考えられます。
【情報通信機器を用いた診療や会議への参加】
診療報酬では、対面診療の原則は堅持しつつ、有効性や安全性等への配慮を含む一定の要件を満たすことを前提に、オンライン診療料等が新設されます。算定可能な患者が限定されるなど慎重なスタートとなりますが、広く普及するのか今後の動向に関心が寄せられており、今後は新規開業時などにおいても検討事項にあがってくると思われます。また、介護報酬では、通所リハビリテーション等での会議への医師の参加について、テレビ電話等を活用してもよいとされ、ICT活用により要件を弾力化する向きがみられます。
【医療と介護の関係者の連携の強化】
介護報酬において医療との連携の要となるケアマネジャーの入退院時連携に関する取組みが評価され、診療報酬では訪問診療を提供する主治医からのケアマネジャーへの情報提供が要件化されるなど、医療と介護の関係者・関係機関との連携に対して双方で報酬が設定されています。この連携強化の背景には、医療と介護にまたがる問題として、中重度の要介護者が医療施設から在宅へシフトしつつありますが、ターミナル期(終末期)になると介護よりも医療での対応が必要とされることも多く、在宅での対応が複雑化していることから、医療と介護の役割分担と連携の重要性が高まったことなどがあります。
【特別養護老人ホーム(特養)入所者の医療ニーズへの対応】
特養では、複数の医師を配置するなどの体制を整備したうえで、配置医師による早朝や夜間、深夜の訪問診療に対し介護報酬の加算が新設されます。併せて、配置医師だけではなく協力医療機関との連携により対応した場合には、協力医療機関は診療報酬の加算などが算定可能となります。さらに施設内で看取った場合には手厚く評価されます。今後、医療ニーズが高い場合には介護医療院などでの対応も考えられますが、基本的な医療ニーズや看取りへの対応は特養でも求められています。
【集合住宅居住者に対する訪問介護等の減算と限度基準額の計算方法の見直し】
集合住宅居住者に対する訪問介護等については、移動に係る労力のコストが軽減されることから介護報酬が減算される仕組みがとられています。今般の改定により事業所と同一敷地内または隣接する敷地内に所在する建物について、利用者の人数が一定以上である場合にはさらに減算されます。加えて、会計検査院からの指摘などにより、減算の適用の有無によって訪問看護等の利用回数を増やすことができないように計算方法が見直されます。計算方法の見直しは利用者間(介護保険給付)の公平性の観点からの指摘によるものです。このような減算などの適用は、主要な原価が介護職員の労務費であるためコスト減で対応することが難しく、減収がそのまま減益につながりやすいため注意を要します。