現代の経営者にとってM&Aは事業承継の重要な選択肢
2017/09/20
中小企業者数は減少傾向に 黒字で廃業するところも!?
2017年版の中小企業白書・小規模企業白書は、「中小企業のライフサイクル」をテーマに分析が行われている。まず、中小企業全体の景況を見ると、緩やかな改善傾向にあるものの、新規開業の停滞、生産性の伸び悩みに加えて、経営者の高齢化や人材不足の深刻化といった構造的な課題が進行している。こうした状況を踏まえ、白書では、①起業・創業によりイノベーションが起こり、②既存企業は成長を目指し、③事業や経営資源が円滑に次世代に引き継がれる、といった「ライフサイクル」が重要であると分析している。
次に、中小企業の最近の動向を見てみると、中小企業者数は2009年から2014年にかけて39万者減少した。この要因だが、中規模企業数が増加する中で、小規模事業者数が42万者減少しており、白書では「小規模事業者の廃業などが特に影響している」と指摘している。
廃業を選択する中小企業・小規模事業者の中には、経営者の高齢化や後継者難を理由とするケースも多い。事実、経営者の高齢化は急速に進んでおり、2015年までの20年間で、経営者の年代別のボリュームゾーンは47歳から66歳へ移動。また、休廃業・解散企業のうち、経営者が60歳代以上、80歳代以上の企業の割合は過去最高となった。
こうした廃業が、国内の生産性を大きく押し下げているわけだが、実は存続企業と比べて、廃業企業は従業員数や売上高は小さいが、利益率が高いという実態も報告されている。休廃業・解散企業のうち、売上高経常利益率が判明している企業を見ると、半数が黒字で廃業しており、その多くが小規模企業だ。この状況に白書では、「後継者不足による廃業を減らすことが重要」と指摘している。
円滑な事業承継に向け5つのステップを実践
経営者が高齢になるに連れて、重要な経営課題となってくるのが「事業承継」だ。2016年に策定された「事業承継ガイドライン」では、円滑な事業承継を行うための5つのステップが示されている。
はじめに、①経営者が早期に事業承継に向けた準備の必要性を認識し、②自社の経営状況や経営課題等を把握するとともに、③それを踏まえた経営改善を行う。その上で、引き継ぐ相手が親族や従業員の場合には、④事業承継計画を策定し、⑤経営や資産を引き継ぐ。また、社外への引継ぎを行う場合には、④引継ぎ先を選定するためのマッチングを実施し、⑤合意に至ればM&A を実施する。
これを見ても分かるように、親族内・親族外のいずれの承継でも、①~③はクリアすべき共通の課題となっている。
中小企業・小規模事業者におけるM&Aの手法としては、次の4つを挙げている。①会社の株式を他の会社に譲渡する方法(子会社化)、 ②株式を他の個人に譲渡する方法、③会社の事業の全部又は一部を他の会社に譲渡する方法、④個人事業者の事業の全部又は一部を他の会社や個人事業者に譲渡する方法。
株式会社においては、株式譲渡(①や②)といった手法で行われることが一般的だが、事業の一部を引き継ぐ場合や個人事業者の場合では、事業譲渡(③や④)で行われることが一般的で、合併や会社分割などの手法が取られることもある。
M&Aに関する相談相手 最も多いのは顧問税理士
近年は、M&Aに対する経営者の意識も変わりつつある。後継者やその候補がいる企業では、M&Aを選択肢に入れている比率は約23%だったが、後継者候補がいない企業では、「M&Aを具体的に検討または決定している」(3.4%)、「事業を継続させるためならM&Aを行っても良い」(33.3%)となっており、M&Aは事業承継の重要な選択肢となっていることが分かった。
ただ、M&Aのニーズはあるものの、親族内承継と比べると、自社株式や事業用資産の最適な移転方法の検討など、資産の引継ぎに関する課題への対策や準備の遅れが目立つ。さらに、従業員の雇用維持や処遇問題、法務・税務・財務等の専門知識の不足といったM&Aに関する課題への対策や準備もほとんど進んでいないのが実情だ。
こうした状況に白書では、「早期に経営や資産の引継ぎの準備に着手するきっかけとして、周囲からの働きかけが重要」としている。それでは、M&Aに関心のある企業に対し、誰が働きかけるべきなのか――。
白書によると、M&Aの相談相手(複数回答)として最も多いのが、顧問の公認会計士・税理士(59.1%)。そのほか親族、友人・知人(43.4%)、取引金融機関(42.3%)となっている。一方、商工会・商工会議所(9.1%)、事業引継ぎ支援センター(4.5%)、よろず支援拠点(2.6%)などへの相談は非常に少なく、M&Aの相談先として「普段から接触機会の多い相手」が選ばれている。
事業承継を成功させるには早期の準備と対策が不可欠
ここで問題なのは、経営者の年代が上がるほど、周囲からM&Aを勧められる割合が高くなっている点だ。経営の引継ぎの課題は、後継者を選定する以外にも対策に時間がかかるものが多く、資産の引継ぎに関しても、特に親族外承継の場合には、資産の移転の方法や資金面などの課題があり、対策には専門性を要する事項も多い。また、個々の企業によって様々な事情があり、それに応じた最適な方法を探していく必要がある。
こうした点を踏まえ、白書では、「経営者にとって身近な存在である、顧問の公認会計士や税理士、取引金融機関、商工会・商工会議所等が、事業の承継に向けた早期の準備を促し、最適な方法を一緒に探していくという役割が期待される」としている。
後継者が不在の場合、これまで培ってきた経営資源を引き継ぐ上でM&Aは有効な選択肢となっている。M&Aを成功させるためには、中小企業を多角的にサポートする体制の構築が欠かせないが、まずは経営者本人が自社の事業をどう次世代に引き継いで行くのかを考え、早い段階から準備を進める必要性を認識することが重要だ。その最初の働きかけをするのは、相談相手のナンバーワンである「顧問の公認会計士・税理士」の役割だといえる。