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税務の勘所Vital Point of Tax

節税封じ、監視強化・・・国外財産の税逃れに包囲門

2020/06/03

 国外財産による課税逃れを封じるため、近年、国税当局は日本人が海外に保有する国外財産に対する監視体制を強化しています。そのためのツールとして「CRS」などの情報交換制度や「国外送金等調書」「国外財産調書」などの法定調書があります。

 また、2020年度税制改正においても、国外中古不動産を利用した節税スキームを封じ込めるための特例の創設や、国外財産に関する資料を提出しない場合の罰則規定が盛り込まれるなど、国外財産の税逃れにさらなる包囲網が敷かれています。

1.外国税務当局との情報交換
1CRSCommon Reporting Standard、共通報告基準)
 CRSとはOECDが策定した国際基準で、各国の税務当局は自国に所在する金融機関から非居住者が保有する口座情報の報告を受け、その非居住者の居住地国の税務当局に対し、年1回、その情報を提供します。これにより、日本の居住者が外国の金融機関に保有する預金等の情報が外国の税務当局から国税庁に提供されることとなります。
 CRSにより交換される情報は主として預金、有価証券等に係る収入(利子、配当等の年間受取総額等)および1231日時点の残高となっています。 
 日本では2018年に情報交換を開始し、2回目となる昨年の情報交換では、令和元年11月末時点で日本居住者に係る金融口座情報約189万件が85か国・地域から提供されました。これらの国には、いわゆる“タックスヘイブン”と呼ばれる国も多く含まれています。
 CRSによって入手した情報は、国外財産に絡む申告漏れの把握に活用されています。金融資産の残高情報は、海外の相続財産の申告漏れの把握に効果的であり、金融資産から生じる利子や配当等のフローの情報は、所得税の申告漏れの把握に活用できます。預金の取引明細など、さらに詳細な情報が必要な場合には、外国税務当局に個別に情報提供を要請することも可能です。

CRSの活用事例】
 被相続人Aの相続税申告において海外資産の計上はなかったものの、受領したCRS 情報から、X 国の預金について相続税の申告漏れが想定されたため、調査に着手した。調査の過程で当該預金が相続財産である事実、さらに A が生前にX 国において不動産を保有していた事実を把握し、それぞれの資産について相続税の申告漏れがあったことが判明した。(出典:国税庁記者発表資料)

2)租税条約等に基づく情報交換
 従来から行なわれていた租税条約等に基づく情報交換には、①要請に基づく情報交換、②自発的情報交換、③自動的情報交換の3類型があり、情報交換件数は年々増加しています。
 「要請に基づく情報交換」は、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、必要な情報の提供を外国税務当局に個別に要請するもので、海外法人の決算書、契約書、インボイス、銀行預金口座の取引明細、外国税務当局の調査担当者が取引担当者に直接ヒアリングして得た情報など、幅広い情報が入手可能となっています。
 「自発的情報交換」は、国際協力の観点から、調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するものをいいます。
 「自動的情報交換」は、法定調書から把握した非居住者等への支払等(利子、配当、不動産賃借料、無形資産の使用料等)についての情報を交換するもので、税務署では自動的情報交換資料と申告書等を照合し、申告漏れの有無をチェックしています。

【自動的情報交換の活用事例】
 Y国の税務当局から提供された自動的情報交換資料をもとに日本の居住者Bの申告内容を検討したところ、Y国のC銀行に預け入れた預金に係る受取利子が日本で申告されていなかったことを把握した。(出典:国税庁記者発表資料)

2.国外財産調書
 5,000万円を超える国外財産を保有する者は、翌年の3月15日までに当該国外財産の種類、数量および価額等を記載した「国外財産調書」を提出しなければなりません。
 国外財産調書には、適正な提出を促すためのインセンティブ措置として加算税の軽減・加重措置が設けられています。調書に記載された国外財産について申告漏れがあった場合には、加算税が5%軽減されるのに対し、調書の未提出または提出された調書に不記載の国外財産について申告漏れがあった場合には、加算税が5%上乗せされます。
 加算税が加重されたケースは、平成30年度において245件、申告漏れ金額では約113億円となっており、年々増加傾向にあります。
 今後は、調書の記載内容とCRS情報を突合することによって国外財産の記載漏れをチェックできることから、国外財産の記載漏れがないよう十分注意する必要があります。

3.国外送金等調書
 金融機関を通じて国外への送金または国外からの送金の受領を行う場合、1回当たり100万円超の送受金については、金融機関において送金者(受領者)、送受金の金額、送金目的等を記載した国外送金等調書を作成し、税務署長に提出することとされています。
 国税当局にとっては、海外取引に係る資金の流れや国外財産を把握するための重要な情報源となっています。

4.2020年税制改正による課税強化
 2020年度税制改正においては、国外中古不動産を使った節税スキームが封じられたほか、国外財産に関する資料の未提出者に対する罰則が強化されました。

1)国外中古不動産スキームの規制
 富裕層の間で米国や英国で高額な国外中古建物を購入し、中古資産に関する減価償却の簡便法を使って多額の減価償却費を計上することで、不動産所得の損失を創り出し、給与所得等と損益通算するといった節税スキームが行われ、会計検査院から問題視されていました。
 2020年改正では、こうした節税策を封じるために、耐用年数を簡便法等により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の損失を不動産所得の計算上、なかったものとみなすという特例が設けられました。この特例は令和3年以降の各年における不動産所得の計算に適用されますが、すでに所有する建物にも適用されますので注意が必要です。

2)国外財産の資料未提出の罰則強化
 国外財産に対する監視を強化する観点から、税務調査時に国外財産に関する資料(預金の取引明細等のフロー情報等)の提出を求められたにも関わらず、指定された期限までに提出しなかった場合、加算税の加重措置を10%とするなどの改正が行われました。まさに、CRSで得られた情報をより効果的に活用し、課税漏れを把握しやすくするための改正といえそうです。

おわりに
 CRSをはじめとする情報交換制度の充実や法定調書制度の拡充により国外財産の情報は国税当局に“筒抜け”の状態となっています。税理士の立場からすれば、国外財産を適正に申告しないことによる課税リスクを顧問先に伝え、将来的に課税逃れの問題が生じないような対策が必要となると思われます。

アドバイザー/多田 恭章 税理士

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