非上場株式の贈与税の納税猶予の特例措置を適用する場合の株価対策~非後継者の相続税額に対する効果を中心に~
2018/08/28
1.はじめに
非上場株式に係る従来の事業承継税制では、贈与でも相続でも、先代から承継した非上場株式に納税猶予の対象外となる部分(発行済株式の2/3超部分)があるので、少なくとも対象外部分について株価対策の必要性(効果)があることは明らかです。
多くの利用が見込まれる贈与税の納税猶予の特例措置(以下「贈与税の特例措置」といいます) では、後継者が先代の代表者等から贈与で取得する対象株式に納税猶予の対象外となる部分はなく、さらに贈与者(先代経営者)が死亡すると、その猶予税額は免除、その対象株式はみなし相続(贈与で取得済みの対象株式を、その死亡に係る相続で後継者が取得したものとみなす)となり(租特法70条の7の7)、みなし相続の場合の相続税の納税猶予 (同70条の7の8。以下「みなし相続の特例措置」といいます) を適用するというパターンを想定すると、後継者の贈与・相続税については株価対策の必要はないということになります。
しかし、贈与税の特例措置の適用後にその贈与者が死亡すると、非後継者もその財産を相続することになります。その場合の非後継者の相続税に、株価対策は効果を持つのかを検討します。それに先立ち、まず、2でみなし相続となる場合の相続税の概要を整理します。
2.贈与税の特例措置を受けた場合のみなし相続とみなし相続の特例措置の概要
贈与税の特例措置による納税猶予を受贈者(後継者)が継続中に贈与者が死亡すると、上述のみなし相続となり、その贈与者に係る相続税の計算において、相続税の課税価格に算入される対象株式の価額は、その贈与の時の価額とされます。みなし相続の場合、同70条の7の8によりみなし相続の特例措置に移行でき、同条により計算される納税猶予分の相続税額は、(贈与税の特例措置の)受贈者の死亡の日までその納税が猶予されます。
3.みなし相続の場合の非後継者の相続税に対する株価対策の効果
贈与税の特例措置を受けている対象株式がみなし相続となり、みなし相続の特例措置に移行する場合を前提に、非後継者の相続税における株価対策の効果の検討に入ります。
まず、この場合、贈与税の特例措置の対象となっている贈与済みの対象株式は、その贈与時の価額で相続財産の課税価格に算入されますから、当該対象株式について贈与後の株価対策は意味がありません。したがって、もし、非後継者の相続税の低減のためにそれをやるべきであれば、贈与前にやっておくということになります。
この場合の非後継者の相続税は、みなし相続となる対象株式を含む相続財産につき、通常通り相続税法16条により「相続税の総額」を計算し、その相続税の総額を受贈者(後継者)である相続人AとA以外=非後継者の相続人B(B1、B2・・)に配分することで決まりますが、Bへの配分は、相続税の総額×《みなし相続分を含む相続財産(債務控除後)の課税価格の合計額を〈分母〉、Bの各相続人の相続財産(同)の合計額を〈分子〉とする割合》を乗じて行われ、B(グループ)の相続税額はこの配分計算で決まります。
この配分計算において、贈与に先立って対象株式について株価対策をして評価を下げておくと、それをしなかった場合に比べ
①相続税の総額は対象株式の評価の減額分に伴って下がります。
②その減額分だけ非後継者Bの相続税額の配分計算の上記割合の分母が小さくなりますが、B(Bは対象株式以外の財産を相続するとします。) の分子はそのままなので、Bの上記割合自体は上がります。
①は非後継者Bの相続税額の減少要因ですが、②はその増加要因です。したがって、その相続税額の計算で①と②のどちらの効果が大きいかを検討する必要があります。
その検討では、相続税の総額を計算するときの適用税率は、株価対策によって課税価格の合計額が下がっても変わらない(変わらなかった)とします。
対象株式を含む相続財産全体の課税価格(債務や葬儀費用があればそれらの控除後の額であることに留意) が、株価対策前が200でそれを1とした場合に、株価対策(対象株式の株価の低下)に伴って例えば0.85レベル(170)に下がったとします。相続税の総額の計算において各相続人に法定相続分で配分される相続財産の価額は、課税価格からさらに基礎控除(相続税法15条。基礎控除は不変で0.85に縮小しない)をした残額(課税遺産の額)なので、課税遺産の額ベースでは、その下がる程度は、基礎控除前の課税価格の下がる程度0.85より小さくなり、例えば0. 83となります。そして、それを法定相続分で相続したとして計算される各相続人の相続税額の計算では、いわゆる速算表の控除額(たとえば、1億円超2億円以下は1700万円)は×0.83とならず不変なので、その控除額の控除後の各相続人の相続税額、さらに、その合計額である相続税の総額の下がる程度は、課税遺産の額の下がるレベル0.83よりさらに下がり、例えば0.81となります。
なお、相続税の総額の計算で各相続人の法定相続分に適用される税率は、株価対策により下がることはあっても上がることはないので、適用税率が下がれば、各相続人の相続税額とその合計である相続税の総額が下がる程度はもっと大きくなることが多くなります(例えば0.79など)。ただ、速算表の控除額も下がるので、株価対策により課税価格の低下が大きくない場合は、相続税の総額が下がる程度がもっと大きくならない場合もあります。
一方、上記割合の分母は、基礎控除前の課税価格(債務等控除後の財産の価額)の総額であるため、その下がる率は上の例で行けば0.85です(Bの分子は不変でNとします)。つまり、上記割合は、対策前はN/200、対策後はN/(200×0.85)となります。
そうすると、Bの相続税額は、対策前は、対策前の相続税の総額×N/200で計算され、対策後は、対策後の相続税の総額×N/(200×0.85)で計算されますが、対策後の相続税の総額は対策前の相続税の総額×0.81ですから、対策後の計算式は対策前の相続税の総額× 0 . 8 1 × N /(200×0.85)と変換できます。
この計算式は、さらに対策前の相続税の総額×(N/200)×(0.81/0.85)と変換でき、下線部は‘対策前のBの相続税額’ですから、対策前のBの相続税額×(0.81/0.85)となります。
上記(0.81/0.85)の値は実際の事案により変わりますが、一般に、分子のほうが分母より小さいので1より小さくなるはずです。これは、贈与税の特例措置に係る対象株式の贈与の前に、その株価対策をしてその評価額を低下させておくと、それをしない場合に比べ、〈贈与者の死亡によりその対象株式以外の財産を相続する非後継者の相続税〉を一定程度軽減する効果を持つ(もし、その株価対策が‘行き過ぎ’として否認されると、非後継者の相続税額の増額更正に繋がる)ということを意味しています。
アドバイザー/税理士法人タクトコンサルティング 亀山 孝之 税理士