相続時精算課税に係る贈与の申告漏れと課税関係
2016/11/10
<事例>
個人甲は、事業用資金が必要となった長男Aを援助するに際し、税理士と相談の上、Aに2,000万円の現金を贈与し、Aは相続時精算課税を選択して贈与税の申告を行った。
その後3年が経過したが、突然にAから税理士に次のような連絡があった。「甲から昨年中に300万円の資金の追加贈与を受けたが、3月15日までに贈与税の申告等の手続をしないままになっている。今からでも何らかの手続をしたほうがよいか」との相談である。
これに対し税理士は、「Aは相続時精算課税を選択し、3年前の当初の2,000万円の贈与時にその適用を受ける旨の手続を行っている。相続時精算課税には、2,500万円の特別控除があるから、その後に300万円の贈与を受けても特別控除額の範囲内であるから、課税問題はない」との回答をした。その後、所轄税務署の確認があり、300万円の贈与に対して、その20%分の60万円の贈与税を納付することとなった。
<検討>
(1)相続時精算課税における特別控除の適用要件
相続時精算課税の適用を受けるためには、一定の書類を添付した選択届出書を提出する必要があるが(相法21の9②)、その届出書の撤回はできないこととされている(同⑥)。したがって、いったん同制度を選択すると、その特定贈与者からの相続時精算課税適用者に対するその後の贈与については、すべて同制度が強制適用されることになる。
一方、相続時精算課税における特別控除(累積で2,500万円)は、期限内申告書にその控除を受ける金額及び既に控除を受けた金額その他の事項の記載がある場合に限って適用することとされている(相法21の12②)。
要するに、特別控除は期限内申告書の提出がない場合には適用されないということである。また、その提出がなかった場合の宥恕規定は設けられていない(相基通21の12-1)。したがって、事例の場合に、300万円の贈与について、仮に期限後申告書を提出したとしても、特別控除は適用されないことになる。
この結果、事例の300万円の贈与については、特別控除を適用しないところの相続時精算課税となるから、その受贈額に対して20%の税率による贈与税課税となるのである。
なお、税務署長は、特別控除額に関する記載のない期限内申告書の提出があった場合において、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載をした書類の提出があった場合に限り、特別控除の規定を適用することができる、とする規定があるが(相法21の12③)、これは、あくまで期限内申告書の提出を前提とした宥恕規定であり、その提出がない場合には特別控除を適用する余地はない。
(2)修正申告における特別控除の適用
事例のケースとは異なるが、次のような場合に修正申告書を提出するときの相続時精算課税の特別控除の適用について、確認しておくこととする。
①相続時精算課税を選択した後の年分の贈与について申告漏れがあった場合(相続時精算課税適用者が、その後に特定贈与者から300万円と200万円の財産を同一年中に贈与を受け、300万円についてのみ期限内申告書を提出した場合)
②相続時精算課税を選択した後の年分の贈与について期限内申告書を提出したが、その贈与財産について評価の誤り(過小評価)があった場合
これらの場合に修正申告書を提出したとしても、上記①では特別控除は適用されない(300万円の贈与に係る期限内申告書は提出しているため、特別控除は適用されるが、200万円の申告漏れの贈与には特別控除の適用はなく、その20%相当額が納付税額となる)。
これに対し、上記の②の場合には、期限内申告書に特別控除に関する記載があったが、評価誤りにより正当な控除額の記載がなかったことになる。この場合には、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があるときに該当するため(相法21の12③)、修正申告書を提出すれば、正当な額の特別控除の適用を受けることができる。
いずれにしても、相続時精算課税のしくみを踏まえれば、その適用を受けた後の贈与についての課税関係に留意する必要がある。
(今回のアドバイザー:小池 正明 税理士)