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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

多忙を極めて取引先の振込先変更を失念・・・過少申告は意図したものか? 

2018/07/30

 請求人は、E医院において内科医として勤務するほか、複数の企業等に産業医としても勤務し、さらに「D事務所」の屋号で複数の企業等と契約して業務を行うなど、多忙な日々を過ごしていた。

 産業医の給与や業務による報酬等の多くは、勤務先または契約相手先企業が源泉徴収を行い、請求人に源泉徴収票または支払調書を交付していた。請求人は、確定申告書の作成をH税理士に依頼し、H税理士は請求人から収入金額に係る資料として数十口の源泉徴収票および支払調書のみ提示を受け、これらを基に売上集計を行って請求人の確定申告書を作成していた。その際、作成した売上げの一覧表を請求人に交付することはなかった。

 平成22年6月、請求人は本件預金口座を新たに開設し、F会に対して同年8月支払分以後の収入を同口座に振り込むように依頼。F会は、本件収入に対して源泉徴収を行っておらず、請求人に支払調書を発行していなかった。なお、本件預金口座は、開設から平成26年12月末までの間、本件収入と利息が入金されているだけで、それ以外の入出金はなかった。

 その後、税務調査が行われ、請求人は担当職員からF会からの本件収入が申告漏れとなっている説明を受け、各修正申告書を提出したところ、原処分庁が重加算税の賦課決定処分を行ったため、その取消しを求めて争いとなった。

 争点は、請求人の修正前申告は、事実を隠ぺいしまたは仮装したところに基づくものか否か。

源泉徴収が行われていたと誤解していた可能性を指摘

 原処分庁は、「請求人は、本件取引先からの収入が本件預金口座に入金されていたと認識していたのに、関与税理士に本件預金口座の通帳を提示しておらず、また、調査担当職員から本件収入の申告漏れを指摘されるまで、担当職員に本件通帳を提示しなかったことからすると、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められるから重加算税の賦課要件を満たす」と主張。

 一方の請求人は、「銀行員の勧誘を受け、平成22年8月以降の本件収入の振込先を本件預金口座に変更したにすぎず、多忙を極めていたことから、振込先を変更したことを失念しており、他の口座に収入のすべてが入金されている認識でいた」、「F会との取引については源泉徴収されているものと思っており、源泉徴収票、支払調書、ほかの口座通帳をH税理士に提示すればすべての収入を伝えていると考えていた」とした。

 これに対して審判所は、「請求人は、平素より極めて多忙であり、毎年多数の源泉徴収票や支払調書を受け取っていたことからすると、それらの内容を確認しておらず、その中に本件収入に係る源泉徴収票がないことに気付かなかったとしても不自然ではない」、「請求人は、確定申告書の作成をH税理士に任せきりにするなど、会計および税務に係る事務に精通していたとはいえず、本件調査において調査担当職員に申告漏れを指摘された時から一貫して、F会が源泉徴収を行っていると思っていた旨を回答していることからすると、F会が源泉徴収を行っていると誤解していた可能性も否定できない」と指摘。

 そして、「調査担当職員に対して本件預金口座の存在を殊更隠ぺいしようとしたとは考え難く、本件通帳以外の通帳を提示すれば問題ないと考えて提示しなかったものとみる余地があり、請求人が当初から所得を過少に申告する意図を有していたことを推認させるものとまではいえず、その他、請求人の意図を認めるに足りる証拠もないから、重加算税の賦課要件を満たさない」と判断した。(平成29年8月23日裁決)

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