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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

所得税の還付後に更正処分 当局の処理は信義則に反するのか?

2016/11/21

 会社員の請求人Aは、平成23年分の所得税の確定申告を平成24年1月23日に提出。同年2月3日、これに基づいて当局はAに国税還付金振込通知書(以下、通知書)を送付し、その後、Aの口座に還付金が入金された。

 しかし、確定申告書に給与所得の申告漏れや扶養控除の適用に誤りがあることが判明し、当局が更正処分を行ったところ、Aが「還付された金額は更正処分の対象にすることはできない。いったん還付した後に更正処分をするのは信義則に反して違法だ」として両者の間で争いが勃発した。

 課税処分への信義則の適用については、その判断基準が昭和62年10月30日の最高裁判決で示されている。同判決では、「租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の適用の是非を考えるべき」と指摘。

 そして、特別の事情の有無を判断する際には、「税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づき行動したところ、後に表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったかどうか、また、納税者が税務官庁の表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか、という点の考慮が不可欠」としている。果たして還付後の更正処分は信義則に反するのか――。

当局は法令の規定に基づき還付金を還付したに過ぎず

 
 
Aは、「原処分庁は確定申告書の記載内容を認め、申告書に記載された『還付される税金』と同額を還付しており、これはAに対して申告書の記載内容は適正であるとの公的見解を表示したものである」、「記載内容に誤りがあることを看過して還付したのは税務職員のミスであり、そのミスを見逃し、署長印のある原処分庁名で通知書を送付し、還付している。それなのに還付金を納付せよというのは問題である」などと主張。


 一方の当局側は、「納税申告は、納税者が所轄税務署長に確定申告書を提出することによって完了する通知行為であり、確定申告書の受理、税金の収納、還付は申告書の記載内容を是認することを意味するものではない」と指摘。また、「確定申告に基づき還付したのは、申告書の記載内容に誤りがあることを看過して還付したものにすぎない。通知書の発送は、単なる事務手続上の措置にすぎない」、「申告書の記載内容に誤りがあることが明らかになった後、遅滞なくAに連絡しており、事務処理を怠った事実はない」として更正処分は「適法」だと訴えた。

 これに対して審判所は、「確定申告書は、Aの妻がパンフレットを見ながら作成し、郵送により原処分庁へ提出されており、審判所の調査でも、税務官庁が申告書の作成について指導した事実が確認できない。したがって、申告書の作成について税務官庁がAに対して信頼の対象となる公的見解を表示したとは認められない」、「原処分庁は所得税法施行令の規定に従って還付したにすぎず、このことは還付金が正当であることを意味するものではない」、「通知書の送付は、還付にともなう単なる事務手続上の措置にすぎず、申告書の記載内容が適正であることを通知したものとは認められない」などと判断。最高裁判決で示された特別な事情があるとは認められず、還付後の更正処分は「信義則に反し違法とはいえない」とした。

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