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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

被相続人に帰属する財産か? 配偶者の収入が混在している可能性を否定できず

2023/01/19

 被相続人は平成30年2月に死亡。共同相続人は被相続人の配偶者、長男、二男の3人(以下、請求人ら)。請求人らは相続税の申告書を期限内に提出。なお、配偶者と二男は、税理士である長男に税務代理を委任した。

 配偶者は平成26年2月から相続開始日までの間に、被相続人名義、配偶者名義、長男名義、二男名義の預貯金口座から合計8577万4000円を現金で引き出した。これらの出金により引き出された現金(以下、本件出金現金)の一部である600万円が相続財産として申告書に計上されていた。

 また、申告書には、被相続人名義の預貯金のほか、配偶者名義、長男名義、二男名義、長男の長女(被相続人の孫)名義の預貯金が計上されていた。

 令和元年11月、原処分庁所属の調査担当職員が調査に着手。配偶者に本件出金現金の行方について確認したところ、現金6500万円の提示があった。その後、長男は新たに見つかった現金1200万円の画像データを提示した(この1200万円と、上記6500万円の合計から申告計上現金の額を控除した金額に相当する現金7100万円を「本件現金」という)。

 調査担当職員は令和2年4月、長男に対して調査結果を説明。本件現金と、配偶者名義の定期預金(約1063万円)、二男名義の貯金(残高が950万円のものと300万円のもの)の申告漏れを指摘され、請求人らはこれを不服として争いが起きた。

 争点は、本件現金等は、被相続人に帰属する相続財産であるか否か。

預貯金の原資が特定できず 合理的なあん分もできない

 請求人らは、本件申告計上預貯金の原資には被相続人および配偶者の収入が混在しており、現金の原資が本件出金現金であることをもって、本件現金の出えん者が本件被相続人であるとはいえず、本件定期預金や本件各貯金についても原資の負担者を明確に特定することはできないと指摘。さらに、「原処分庁は被相続人および配偶者の生涯収入の比率により被相続人に帰属する相続財産の額を計算しているが、原処分庁が主張する生涯収入は推計額であることに加えて、実態とかけ離れた数値が混在しており、合理性が担保されていない」と主張した。

 一方、原処分庁は、「本件現金が、本件出金現金の一部であることは配偶者の申述等から明らかである」、「被相続人および配偶者の生涯収入の比率は、被相続人が95.31パーセント、配偶者が4.69パーセントとなるから、被相続人または配偶者のいずれかに帰属する金融資産のほとんどは被相続人の出えんにより形成されていたといえる」などとした。

 これに対して審判所は、「原処分庁は、相続税の申告書に計上されていない本件現金、被相続人の配偶者名義および二男名義の預貯金は、出捐者や被相続人および配偶者の収入比率などからその帰属を判断すると、いずれも被相続人に帰属する財産である旨主張する。しかしながら、本件現金の出金元である本件申告書に計上された預貯金口座で管理運用されていた預貯金の原資が特定できないことや、配偶者も収入を得ていたと認められることなどからすると、本件現金には被相続人および配偶者の収入が混在している可能性を否定できない中、審判所においても被相続人および配偶者の収入比率等により本件現金を合理的にあん分することもできず、また、預貯金についても本件現金と同様、それらの原資を特定することができなかった」と判断。

 「配偶者が管理運用しており、被相続人の収入が混在している可能性を否定できない中、被相続人および配偶者の収入比率等により合理的にあん分することができないのであるから、本件申告書に計上された預貯金および現金の額を超えて、本件現金、本件預貯金が被相続人に帰属する相続財産として存在していたと断定することはできない」として処分の全部を取り消した。(令和4年2月15日裁決)

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