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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

実地調査で取締役の横領発覚 役員の給与等に該当するか?

2019/05/09

 請求人は、生鮮魚や海産物の販売および加工業を営む同族会社。請求人の役員は、代表取締役のAとその実弟であるBの2名のみで、Bは取締役専務の肩書の使用を許されていた。

 Bは、平成21年10月から平成28年3月までの間、請求人名義のH信用金庫の当座預金口座から小切手を振り出すことで現金を引き出し、個人的に費消していた。しかし、平成28年4月、原処分庁の調査担当者が請求人への実地調査を行ったことでBの不正行為が発覚。その後、Bは費消した現金を弁済することで請求人と合意した。

 横領された現金が戻ってくれば、請求人としても一安心だが、ここで新たなトラブルが発生する。原処分庁は請求人に対し、横領金はBに対し給与として支払われたと認められることを理由に、源泉徴収に係る所得税、源泉所得税および源泉徴収に係る復興特別所得税の各納税告知処分をするとともに、請求人が本件不正行為により、Bに対して金員を給与として支払った事実を隠ぺいまたは仮装したとして、重加算税の各賦課決定処分をしたのだ。

 原処分庁は、「請求人はAとBのみが役員である同族会社で、Bは代表者の実弟という身分関係にあったことから、Bは代表者に次ぐ役員として請求人の業務において影響力を有していたものと認められる」、「Bは、取締役専務の肩書で経理および財務の総責任者を務めており、Aは、自ら容易に行える当座預金の残高照合の確認作業や帳簿の不審点についてのBへの追及などをしていなかったことから、Bは経理業務の重要な部分を任せられていたと認められることからすると、Bは、その地位に基づいて本件金員という経済的利益を支給されたといえる。したがって、本件金員は請求人がBに支給した給与に該当する」などと主張。

 一方、請求人は、「Bは請求人の少数株主かつ代表権のない取締役にすぎず、その職務内容や権限は、ほかの経理担当の従業員と変わらない」、「Bは、本件不正行為により横領金と同額の損害賠償債務を負うこととなるため、Bには担税力を増加させる経済的利得はなく、Bは不正行為発覚後、請求人に横領金の一部を返還し、今後その残額を返還する予定である。したがって、Bは横領金による経済的利益を得ておらず、横領金に係る所得を得ていない」などとした。

代表者の弟は業務執行等を決定する地位にはなかった


 これに対して審判所は、「請求人の役員はAとBのみであるとはいえ、原処分に係る期間を通じて、Bは請求人の株式の10%から25%を保有するにすぎず、代表権もない一方で、Aは請求人の株式の55%から75%を保有し、代表権を有していたと認められることからすると、Bは法律上、単独で請求人の業務執行等を決定する地位にはなかったと認められる」と指摘。

 さらに、「Aが、当座預金の残高照合についてBに任せており、自らは確認作業を行っていないとの事情や、帳簿の不審点についてBを強く追及することがなかったとの事情は、請求人のBに対する管理監督が不十分であったことを示すものとはいえても、請求人がBに対し、経理業務の重要な部分を任せていたことを示すものとまではいえない」などと判断。

 「Bが、その地位および権限に基づいて請求人から本件金員を得たものとは認められず、本件金員は請求人がBに支給した給与等に該当するとは認められない」として、原処分庁の処分のすべてを取り消した。(平成30年5月7日裁決)

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