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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

被相続人の建物を収去し土地を返した相続人の債務控除は?

2019/07/19

 平成23年5月に被相続人Aが死亡、その相続人である妻と子らが今回の請求人だ。昭和61年3月、Aは地主Bが所有する土地について賃貸借契約を締結、そこに5階建ての店舗および共同住宅を新築した。

 平成18年12月分からAが土地の賃料を滞納するようになり、平成22年5月、Bは借地契約解除の意思表示を行った。その翌月にBが亡くなり、土地を相続したCが、Aに対して建物を収去して土地を明け渡すことや未払賃料などの支払いを求める訴えを起こした(Aの死亡後、Cは各訴えの被告を請求人らとする旨の訴状訂正の申立てをした)。

 平成24年、裁判所は、請求人らに建物を収去して土地を明け渡すとともに、未払賃料や賃料相当損害金の支払義務を免れないとする判決を下したが、それでも請求人らは建物の収去義務を履行せず、Cは建物収去命令および代替執行費用支払の各申立てを行った。

 請求人らは代替執行ではなく、自ら建物を収去するため、平成27年3月にR社との間で建物解体の工事請負契約を締結。建物は解体されたが、建物の基礎となった杭が土地に残されたため、請求人らはS社に引き抜き工事を依頼した。しかし、重機を現地に搬入することができず、最終的に請求人らはCに対して金銭を支払うことで解決した。

 その後、請求人らは相続税の申告書を法定申告期限までに共同で提出したが、建物を収去して土地を明け渡す債務は、被相続人Aの債務として控除されるべきなどとして更正の請求を行った。その債務控除を原処分庁が認めず争いとなったわけだ。

相続税法14条に規定された確実と認められる債務とは

 争点は、建物を収去して土地を明け渡す債務は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するかどうか。


 請求人らは、「被相続人は借地契約の終了により本件債務を負うことになったが、この債務は、被相続人の生前に発生していた被相続人の債務であり、相続開始時において確実に存在していたことは明らか」と主張。

 一方の原処分庁は、一部財産の価額は過大だったことを認めつつも、「本件債務のうち、土地を明け渡す義務については、相続開始日において確実な債務であるが、建物を収去する義務は、相続開始日において必ずしも建物を収去する必要はなく、建物をCに引き渡す方法が選択可能であったから、相続人らが建物を収去し、その費用を負担したことは、相続開始日後の事情というべきであり、履行が確実な債務とは認められず、相続開始日において確実な債務とはいえない」とした。

 これに対して審判所は、「本件債務は、相続開始日前の平成22年5月21日に借地契約が終了したことにより、被相続人が建物を収去して土地を明け渡す義務を負ったもの」、「本件債務は、相続開始日に現に存し、その履行を免れないものであるから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であり、これを覆す証拠は見当たらない。原処分庁が述べるところは、確実な債務についての履行手段をいうものであって、相続開始日後の事情というほかなく、相続税法第22条が控除すべき債務の金額はその時の現況による旨規定している趣旨に照らし、採用できない」と判断。本件債務、すなわち建物を収去して土地を明け渡す債務は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するとして、原処分庁の処分を一部取り消した。(平成30年7月9日裁決)

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