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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

遺留分をめぐる判決が未確定 相続税の課税価格の計算上控除は?

2016/10/06

 医療法人の理事長を務めていた被相続人は、平成17年、公証人役場において遺言公正証書を作成。そこには、すべての財産を子である請求人に相続させる旨が記載されていた。

 2年後、被相続人が亡くなったことを受け、請求人は遺言書に基づき被相続人のすべての財産を取得。ところが、もう一人の法定相続人である被相続人の配偶者が、遺留分減殺請求訴訟を提起したため、請求人は遺留分相当額ならびに葬式費用を控除して相続税の申告を行った。しかし、遺留分相当額が確定していないことから、当局は遺留分減殺請求がなかったものとして更正処分を行ったことで争いが生じた。

 今回の争点は、更正処分時に遺留分減殺請求訴訟の判決が未確定だった場合の処理について。請求人は、「遺言書により被相続人の財産承継者として自分が指定されているが、遺留分相当額が確定しておらず、遺言を執行して被相続人の財産を処分するなどできない状況であるから、被相続人の財産を請求人が取得したと考えることはできない」として、「課税価格は、遺言書により取得した財産の価額から遺留分相当額を控除して計算すべきである」と主張。

 一方、当局側は、「遺言書により、被相続人の財産はすべて請求人に帰属する。また、遺留分減殺請求がなされているとしても、更正処分時において、その額が確定していないことから、遺留分減殺請求がなかったものとして請求人の課税価格を計算すべき」と指摘。

 両者の言い分について審判所は、「配偶者は遺留分減殺請求訴訟を提起しており、更正処分時において判決は確定していない。そのため、遺留分相当額が確定していないため、請求人の課税価格は遺留分減殺請求がなかったものとして計算するのが相当である」として、当局の判断を支持している。

葬式費用は係争中と判断 当局側の処分を取り消し
 
もうひとつの争点は、配偶者が、喪主である自分が負担すべきものと思って支払った葬式費用を、請求人の課税価格の計算上控除することができるか否か。

 請求人は、「葬式費用は、配偶者との間で誰が負担するか確定しておらず、自分が取得すべき預金から支払われているため、その全額を請求人の課税価格の計算上控除すべき」と主張。当局サイドは、「葬式費用は、被相続人の債務ではなく、相続または遺贈との関連において負担するものではない。配偶者が葬式費用を支払っていることから、配偶者の課税価格の計算上控除するのが相当」と反論している。

 この点について審判所は、「遺留分減殺請求訴訟において配偶者が準備書面の添付資料として提出した『遺産目録』と題する書面に、当事者間で争いがある葬儀費用として記載されている事実がある。請求人と配偶者の間でも係争中であることが一致しており、葬式費用はどちらがどれだけ負担するか更正処分時に確定していなかったことが認められる。そのため、遺言書で指定された相続分に応じて葬式費用を負担するものとし、その全額を請求人の課税価格の計算上控除するのが相当である」として当局の処分を一部取り消す判断を下した。

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