社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉞
2024/09/18
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過去の裁決、裁判例で何が証拠としての決定打となったかを検証することは実務において必須の知識事項といえるため、下記では、相続税に係る過去の事例を検証していくことにより、実務におけるエビデンスの作成、整理、事前準備のポイントを確認していきます。ここは総論のため、争点はランダムになります。
(1)エビデンスの検証
下記の裁決では主に事実関係に係る整理(≒事実認定)のうち、「エビデンスに係るもの」を意図的に抽出して検証しています。
〇平成21年10月23日裁決 裁決事例集No.78 114頁(TAINSコードJ78-4-28)
上掲TAINS要旨
原処分庁は、本件家屋について①平成17年1月以降公共料金の使用実績がないこと、②賃料の支払を確認できないこと及び③請求人の被相続人の母親が死亡してからは貸しておらず空家であり、本件相続開始日において貸していない旨の原処分庁の調査担当者に対する申述をもって、賃貸されていたとは認められない旨主張する。しかしながら、仮に賃借人が電気、ガス、水道を使用していなかったとしても、不在により使用がなかったにすぎず、本件家屋が賃貸借の目的となっていない理由とはならず、また、賃料の支払を確認できないことについては、確かに、平成10年1月以降支払われていないことが認められるが、被相続人が賃借人に対し借地借家法第26条第1項及び第27条第1項に規定する解約の申入れをした事実は認められず、(・・・中略・・・)家賃が未払になった後も賃貸借契約は継続していたというべきである。(・・・中略・・・)賃借人が平成9年7月以降平成21年4月ころまでの間も本件家屋に荷物を置いて同所を占有していたこと、賃借人が父親の死亡後に被相続人から本件家屋を賃借したものであり、請求人も平成21年4月ころ、賃借人から残置家財の放棄承諾書の送付を受けるなど同人の適法な占有を前提とする行為をもしていることと整合せず、本件家屋が本件相続開始日において賃貸の用に供されていないことを裏付けるに足りるものとはいえない。したがって、(・・・中略・・・)本件家屋は相続開始日において賃貸借の目的となっている貸家であると認められる。当該事案に係る納税者が主張し、納税者の主張が認められた事実認定における疎明資料のポイントとして、
① 契約書はなかったが、賃貸借契約の存在が推認されたこと
② 本件相続開始日に当該家財等の処分に関する書面が相続人との間で交わされており、貸家契約が継続されていたことが推認されたこと
が挙げられます。契約書という原始証拠について存在は必然であることは当然として、その後は実態確認になります。換言すれば、当初契約書がそもそも存在していない、ということであれば、実態確認に及ぶこともなかった可能性があります。
入居者が高齢になり、突然入院、その後施設に入り以後退院することがない場合、入居者の家財等が当該家屋を占有している等々、貸家契約が継続されているとされます。
しかし、この疎明は、
・契約の存在、と
・それが解約されていないことの客観的証明
は必ず必要となり、それに係る疎明資料は必須の準備事項といえます。
〇平成20年3月28日裁決 裁決事例集No.75 508頁(TAINSコードJ75-4-30)
上掲TAINS要旨
遺産分割は、被相続人が遺言で禁じた場合を除く外、何時でも、その協議で行うことができるところ、仮に、遺産分割調停申立て前までに共同相続人間で相続に係る遺産分割が成立していないとすれば、請求人は、相続の開始及び相続不動産の存在を了知しており、かつ、兄が本件被相続人の遺産のすべてを事実上取得していることにつき不満を有していたのであるから、例えば、姉が兄に対し相続財産である別件土地の所有権移転を要求した時などに共同相続人の間で協議による分割請求を行うのが合理的な行動であると考えられるのにもかかわらず、請求人は、姉から一緒に兄に対し一緒に財産分けの要求をしないかと相談されたもののこれを断るほか、別件土地の所有権移転がなされた事実を確認した後、共同相続人間で何らの協議もしないまま、当該調停の申立てを行うなどの行動をとっている。
これに加え、①共同相続人は、相続不動産のほとんどが農地であったために、農業を引き継ぐ長男である兄がすべての農地を含めて遺産を相続するものと認識しており、これは、被相続人の死亡の際には、生前に分与された残りの財産をすべて跡取りが相続するのが建前であったとされる本件相続開始当時における農家相続の実態調査等の結果にも合致するものであると認められること、②相続不動産の一部が兄により売却され、請求人が現金の分与がないことに不満を持っていたにもかかわらず、その売却代金の帰属につき何らの異議も申し立てていないこと、③相続開始後調停に基づく相続登記までの経過年数が41年11か月であるにもかかわらず、その間に一度も遺産の分割請求がなされないことは極めて不自然であると考えられることなどに照らせば、調停によって相続に係る遺産分割が成立したものとは認められず、かえって、遅くとも別件土地についての所有権移転の要求が姉から兄に対してなされた時までには、共同相続人間においては、相続不動産のすべてについて、兄が単独で相続することにつき黙示の合意があったと推認することができるというべきであるから、本件土地の所有権は、相続登記がなされているものの、請求人が兄から贈与により取得したものと認めるのが相当である
(以下、省略)。
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