社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉟
2024/09/24
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本件は遺産分割協議を実施しないまま、相続開始から約40年経過してしまい財産を取得していない状態にあり、ようやく調停になって相続財産のうち土地を取得し、相続財産のうち土地を取得し所有権移転登記も行ったのだが、当該土地が調停成立の直前に公共事業用地として買収予定価格が示されていたため、財産評価基本通達方式で評価してよいのか、といった事案です。
当該事案について納税者が主張し、それが認められた事実に係る関係整理における疎明資料のポイントとして、
・約40年間にわたり遺産分割協議を全く行わなかった事実が結果としてどのように判断されたかということにあります。なお、後段の総則6項については評価の論点でここでは詳細を割愛します(上掲、「以下、省略」部分)。
さて、審判所の判断では「遅くとも別件土地についての所有権移転の要求が姉Jから兄Hに対してなされた時までには、本件相続不動産のすべては、共同相続人全員の黙示の合意の下で、兄Hが単独で相続したものと認めるのが相当であるから、本件土地は、本件新相続登記がなされているものの、請求人が兄Hから贈与により取得したものと認めるのが相当」としています。こういった事案を避けるために、
・遺産分割協議において、十分な財産を取得できていない場合、共同相続人に対し分割請求を行うなど異議を申し立てておく必要があります。
・そして、それがなければ、分割において黙示の合意があったと判断される恐れがあります。
すなわち、
・異議申立てに係るエビデンスが必要であったということです。
〇平成23年3月7日裁決 裁決事例集No.82 (TAINSコードJ82-4-13)
上掲TAINS ポイント及び要旨
(ポイント)
「この事例は、被相続人の遺言書に「不動産以外の財産は請求人及び二男に相続させる。ただし、預貯金等で私の名義になっていないものはそれぞれその名義人の所有である」旨記載されていたことから、このただし書の解釈が問題となったものである。」とある。
次に裁決要旨として、「原処分庁は、本件遺言書記載の各相続人名義の預貯金等(本件預貯金等)が、本件相続開始日現在では請求人によって換金されて現金として保管されていたという事実の下、本件遺言書は、不動産以外の財産については、請求人及び二男に相続させることを原則とする趣旨であると解される旨主張する。
しかしながら、本件遺言書第4項ただし書には、預貯金等で本件被相続人名義になっていないものは、各名義人の所有である旨記載されているところ、①当該記載及び追加遺言書に「三女がこのお金をおろす時は」と記載されていることからすると、本件被相続人は、本件預貯金等については、各名義人以外の者がこれを換金することは予定しておらず、本件相続開始日まで本件預貯金等がそのまま維持されていることを想定していたものと認められること、②本件預貯金等は、本件被相続人が亡夫から相続したものであり、本件被相続人の意思で各人名義の預貯金等としたものであること、③本件預貯金等の換金は請求人が行ったことであり、本件被相続人は当該換金の事実を知らなかったことを併せかんがみれば、本件遺言書第4項ただし書は、同書作成時に本件被相続人が各人名義で預貯金等としていたものは、換金のいかんにかかわらず、これを各名義人に遺贈する趣旨であると認めるのが相当である。」とあります。
本件では納税者が、本件被相続人の預貯金等について本件被相続人の承諾なしに解約・処分しています。しかし換金された現金をそのまま保管していたため被相続人が各名義人に遺贈するという意思の立証に結びついています。
相続人が被相続人の預貯金等に承諾なしに処分した場合、贈与認定されるのが通常です。しかし、本件では、上掲のとおり、解約した請求人が換金した現金をそのまま保管していたことが遺贈認定されたわけです。
ここで、仮に、納税者が換金した現金の一部を費消していたとすると遺贈ではなく納税者に対する贈与等認定がなされていたことは間違いないでしょう。被相続人の財産の処分は本人の意思に従って行うべきで、
・当該「本人の意思」を疎明資料として証拠に残し、財産の帰属を明確にすることが必ず必要となります。
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