社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉕
2024/04/23
2)
1)の続きとして本件と事実関係は異なるが、本件と同様の判断をした裁判例を、以下紹介する。
1 大阪高裁平成15年8月27日判決(税務訴訟資料253号順号9416)
代表者の法人における地位、権限、実質的に有していた全面的な支配権に照らせば、当該法人の金員を当該法人から代表者の口座へ送金したことは、当該法人の意思に基づくものであって、当該法人が代表者に対し、経済的な利得を与えたものとみるのが相当であるとされた事例。
2 仙台高裁平成16年3月12日判決(税務訴訟資料254号順号9593)
国側は、本訴において本裁判例を引用して主張した。)法人経営の実権を代表者が掌握し、法人を実質的に支配しているような法人において、代表者がその意思に基づき、法人の資産から、経理上、給与の外形によらず、法人の事業活動を利用して利益を得たような場合には、その利益は、当該代表者の地位及び権限に基づいて当該法人から当該代表者に移転したものと推認できるとされた事例。
3 東京地裁平成19年12月20日判決(税務訴訟資料257号順号10853)
法人の取引先に対する売上原価として損金計上した金額のうち、代表者が指定する銀行口座に振り込まれるなどした金額については、当該法人から取引先に対する代金支払という外形をとるものの、実質的には取引先を介して代表者に対して金員が移転され、代表者が同金員を取得したものとみることができ、このような商品取引については代表者が形式的にも実質的にもこれを有効に行う権限を有していたことからすれば、当該法人から代表者に対してなされた金員の移転は、当該法人から代表者に対し経済的な利益が給付されたものということができるとされた事例。
補論として簡潔に説明をしておきます。
上述のように税務調査に係るエビデンス資料の準備については証拠法の基本的理解が不可欠です。
大前提は当局も意識しているように課税要件事実の重要性を意識します。租税を課すためには、法律の規定が必要(租税法律主義:憲法84条)です。そして、法律に規定してあるのは、課税要件と法律効果になります。これは「ある事実があれば、納税義務が生じる」と平易に読み替えることができます。
したがって、当局が租税を課すためには、法律の規定する事実(課税要件事実)が絶対に必要になります。
次に事実認定に関する基本的なルールです。法律の規定する事実(課税要件事実)は過去の事実です。よって、「証拠」から「認定」をすることになります。当局が「証拠」を収集する手続が「税務調査」ともいえます。国税通則法には、「税務調査」に係る基本的なルールが規定してあります。
では、その「証拠」から「事実」が認定できるのか、「証拠法」に、事実認定に関するルールが存在するため、それを意識します。
証拠法と表現していますが、法文ではなく、つまり「何かをみれば書いてある」ということではなく、すべて実践知になります。実務では定式化できない箇所がたいへん多いといえます。しかし、基本的な「枠」は、ほぼ定式化されています。したがってその定式を知っているかどうかで、「事実」をどのように扱うかが理解できます。
証拠法の基本的知識は、税実務では下記の箇所で活用できます。
○取引時の証拠保全
○申告時の事実確認
○税務調査時の税務当局への反論
○争訟時の主張、立証活動
事実認定の構造として、大前提として「証拠」から「事実」を認定する手法は2つしかないということです。これは上記でも解説しています。
○直接証拠
証拠→課税要件事実
例えば、贈与契約書があれば、「贈与」(により取得した財産)(相続税法2条の2第1項)があるため課税関係が生じ得る、といった単純なものとなります。もっとも、信用性の問題は常にあります。上記のとおり、証拠が形式的にあっても内容が社会通念(=常識)にしたがって明らかに不合理であれば問題が生じます。
○間接証拠
証拠→事実(経験則)→課税要件事実
(かつ)
証拠→事実
例えば、議決権行使書面があり、議決権行使されていたとします。その後、株式の「贈与」があったとします。一方、別の証拠として預金通帳があり、そこに配当金受領の履歴があったとします。それらを総合勘案します。
間接証拠の活用についても当局の理解としては先述したとおりです。直接証拠のほうが端的なのは当然ですが、例えば先の例でいうところの直接証拠=贈与契約書がなく、直接証拠を使えない場合に関しては間接証拠が使えるかを検証する必要があります。
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