どう変わる?非上場株式評価の行方(第2回) 国税庁が見直し案を提示
2026/09/08
国税庁主催の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(以下「有識者会議」という)」の第5回は8月20日に開催され、これまでの議論を踏まえ、国税庁が考える「取引相場のない株式の評価」の見直し案が提示された。
Ⅰ.国税庁による見直し案
国税庁によれば、次の枠組みの下で、抜本的に評価体系の見直しを行いたいとした。

1.残余利益方式
国税庁が提案した「残余利益方式」は、第3回有識者会議で櫻井委員が提唱した「残余利益モデル」をベースにした評価方式である。
「残余利益モデル」は、①企業の保有資産に②企業の収益獲得能力を加減算して評価額を算出する。
これに対し国税庁「残余利益方式」は、①簿価純資産に②数年分の超過収益を加減算し、それにしんしゃく率を乗じて評価額を算出する。
①簿価純資産は、売却を前提としない継続使用を前提とした帳簿価格であり、建物・設備等は減価償却後の価額とする。時価への洗替が不要な簡素な評価で、事務負担が軽微であるとする。
②超過収益とは、企業が通常期待される利益を上回る金額(=残余利益)の現在価値であり、「数年分」について、国税庁は「有識者からは5年分が良いのではないかという意見があった」と紹介している。残存利益は、年平均利益-前期の簿価純資産×期待収益率(還元率)により算定する。
国税庁が提示した具体的な算式は、以下の通りである。

使用する簿価純資産、当期純利益については、法人税申告書等から容易に把握可能としており、別表五(一)、別表四の記載金額が想定される。
8月20日付日経新聞一面では、「試算では収益力が高く規模が大きい企業で現行ルールより評価額が上がり、相続税負担が増す傾向がみられた。一方で、収益力が高くない中小・零細企業はおおむね横ばいか減少した。」と紹介している。日本商工会議所が第5回有識者会議に提出した「意見書」でも、「一定の仮定の下で行った試算では、評価額が現行方式の2倍から5倍近くに達し、相続税負担が数千万円から数億円規模で増加する事例も確認されている。」と税負担の増加が企業に及ぼす悪影響を懸念している。
2.純資産価額方式
いっぽう、以下のような会社は、残余利益法ではなく純資産価額方式により評価するとしている。
・残余利益方式よりも純資産価額方式により評価する方がより適切な時価評価になると考えられる会社
・評価通達における残余利益方式により評価することが技術上困難と認められる会社
・残余利益法の前提である継続企業の前提に疑義又は欠いている会社
具体的には、資産管理会社、組織再編成直後の会社、開業後5年未満の会社、開業前又は休眠中の会社、清算中の会社(清算分配見込金額で評価)を挙げている。
「資産管理会社」とは、事業承継税制の適用対象外とされている資産保有型会社、資産運用型会社を想定しており、その判定は帳簿価格で行う。ただし、従業員5人以上等の要件を満たしている会社については事業承継税制の適用を可能とする緩和要件は採用しない。特定資産保有割合を計算する際の現金預貯金については、運転資金相当額を控除するなどの修正を行うことを検討している。
純資産価額の計算において、従業員に係る退職給付引当金を一部条件付きで負債として取り扱うなどの見直しを検討する。
3.配当還元方式
同族株主以外の従業員等少数株主に対して適用する配当還元方式は、その趣旨を貫徹できるよう対象株主の範囲を見直して存続させることとしている。
現在「同族株主」とは、株主とその同族関係者の有する議決権割合が30%以上(50%超の場合は50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいい、「同族関係者」とは、株主の親族(配偶者・6親等内血族・3親等内姻族)等及びこれらの者が他の会社の発行済総数の50%超の株式を保有している場合の当該他の会社をいう。
近年の親族関係の希薄化を受け、国税庁は今般の改正において「同族関係者」の範囲を、現在の「配偶者・6親等内血族・3親等内姻族等」から「配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等内の姻族等≒現在の『中心的な同族株主』」に縮小することを検討している。
また、同族株主について、平成15年の通達改正により議決権保有割合だけで判定していたのを、それ以前の議決権保有割合と株式保有割合を用いて判定することに戻すとしている。
原則的評価方式を適用している者との間に委任・代理契約を締結している者、一時的所有を目的として取得した者については、配当還元方式の適用対象外とするとしている。
国税庁は、上記見直しをすることで、以下のような租税回避スキーム(評価額圧縮スキーム)を防ぐことができるとしている。
①企業規模等の操作による評価額圧縮
②利益等の恣意的な操作による評価額圧縮
③グループ法人税制を活用した評価額の圧縮
④株主構成等の操作による配当還元方式の濫用
なお、国税庁が考える見直し案の骨子については、第5回の議事要旨と合わせて公表される予定である。
Ⅱ.日本商工会議所による「意見書」
上記国税庁案に対し、日本商工会議所(以下「日商」という)は、以下主張を掲げ、極めて慎重な検討が必要である旨の意見書を提出した。
1.国税庁案について
(1)新方式検討に際しての確認事項
・類似業種比準方式は、中小企業の事業の円滑な承継の観点から収益性を評価上加味することとされた経緯があり、その配慮を欠いた見直しは看過できない。
・現行方式で問題となっている制度部分や租税回避行為への限定的な見直しが優先され、評価体系全体の変更とを分けて検討すべきである。
(2)国税庁案(残余利益方式)の問題点
・国税庁が提案する残余利益方式は、評価額が現行方式の2倍から5倍近くに達し、相続税負担が数千万円から数億円規模で増加する事例もある。一部の課税逃れ対策のために、多くの中小企業の事業承継が崩壊するのではないかと懸念する。
・評価水準が空白のまま評価体系だけを決定することは、これまでの議論の経緯に照らして受け入れられない。
・新方式は、中小企業の成長投資を歪ませ、政府の成長戦略である「強い経済の実現」「成長投資の拡大」に逆行したメッセージになりかねない。
・中小企業に対して上場企業と同等の還元率を用いること、さらに一律の還元率を用いることなど、新方式が合理的な評価となるのか疑問であり、明確な根拠を示すべきである。
2.租税回避スキームについて
・中小企業の役員報酬や役員退職金は、正当な報酬として、法人税においても過大とならない範囲で損金算入を認めている。納税資金は、株式を換金できない以上、企業から捻出せざるを得ないことにも留意すべきである。したがって、役員報酬や役員退職に対してこれ以上制約をかけるべきではない。
・グループ化を通じて、多角化やインフラ維持、技術伝承等に積極的な中小企業の取り組みを阻害するような制約をかけるべきではない。
第6回有識者会議は9月16日に予定されており、国税庁はこの回以降、残余利益方式の細部(各論)の詰めに入るつもりだと思われる。いっぽう日商は、残余利益方式の入り口段階で問題提起しており、今後の先行きは、まだ予断を許さない。
解説/玉越賢治税理士 税理士法人ゆいアドバイザーズ 代表
取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 委員
日本商工会議所税制専門委員会学識委員
◎今後の有識者会議の議論や制度改正の動向につきましては、当サイトにて、玉越賢治税理士に引き続きご解説いただきます。