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相続・事業承継Vital Point of Tax

事業承継税制 特例措置終了でどうなる?議論の行方に注目集まる

2025/04/30

 中小企業の事業承継を後押しするため、平成30年度税制改正により、法人版事業承継税制に10年間の特例措置が創設された。その適用期限が来年3月に迫っており、現在、特例措置終了後の対応について議論が進められているが、何らかの新たな措置が講じられるのかどうか、注目が集まっている。

法人版事業承継税制は、一定の要件のもと、非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予する制度。2027年12月末までの10年間限定の時限的な措置として、猶予対象株式数の上限を撤廃するとともに、猶予割合は贈与税・相続税ともに100%となっている。

 法人版事業承継税制の特例措置を活用するためには、特例承継計画を都道府県に提出する必要があるが、令和6年度税制改正により、この特例承継計画の提出期限が2年間延長され、2026年3月31日までとされた。さらに、特例措置の期限までに事業承継税制の最大限の活用を図る観点から、令和7年度税制改正大綱では「事業承継税制が適用されるためには、株式贈与日に後継者が役員(取締役、監査役または会計参与)に就任後3年以上経過している必要がある」という役員就任期間を特例措置に限って事実上撤廃。「贈与の直前において特例認定承継会社の役員等であること」が盛り込まれた。


 このように、事業承継税制を促進するための様々な対策が講じられているが、特例措置の恩恵を受けることができる贈与・相続の期限については、2027年12月31日から見直される動きがなく、過去の税制改正大綱でも「適用期限は今後とも延長しない」ことが強調されていたため、特例措置は10年間で終了という見方が強かった。

 しかし、令和7年度税制改正大綱の中で、「事業承継による世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念も踏まえ、事業承継のあり方については今後も検討する」という方向性が示されたことで、特例措置の終了後、事業承継を促進させる何らかの施策が講じられるのではないかという期待が生まれた。

 この方向性について、公明党の西田実仁幹事長は2月12日に行われた記者会見で、昨年末に与党税制改正大綱をまとめた際、特例措置終了後の対応について「しっかり検討していかなければならないという公明党の要望が
盛り込まれた」ことを語った。

 また、特例措置終了後の事業承継のあり方について、年末の与党税制改正大綱に向けた議論の前に、「6月の骨太の方針を決定していく際にも中小企業の事業承継税制、とりわけポスト特例措置について、しっかりと検討していく必要がある。(事業承継税制の)一般措置では、特例措置で適用された中小企業の約10分の1しか適用事例がない。あまり利用されていないので、一般措置で本当にいいのか、それともポスト特例措置として別の何らかの措置が必要なのか、そういうことも含めて議論を加速させていく」ことを自民党に提案し、合意を得たことを述べた。

新しい資本主義実現会議で特例の「恒久化」求める声

 3月28日に首相官邸で開催された第32回新しい資本主義実現会議でも、論点のひとつとして、令和7年度税制改正大綱において「事業承継のあり方については今後も検討する」と記載されていることを踏まえ、事業承継に係る政策の在り方の検討を進めることが示された。
 同会議の資料を見ると、委員からは特例措置の恒久化を求める意見が多くあった。

 「事業承継は中小企業にとって恒久的な課題であり、地方創生2.0に貢献するためにも事業承継税制の特例措置の恒久化が必要不可欠」(小林健日本商工会議所会頭)。


 「事業承継税制の特例措置は、期限限定のため、後継者の年齢が若いなどにより、今、特例措置を使えない中小企業経営者から「不公平」という声がある。今、特例措置を使えない中小企業経営者が、今後、使えるようにするため、事業承継税制の特例措置

は、期間限定ではなく、恒久化することが必要」(諏訪貴子ダイヤ精機㈱代表取締役)。
 
 「中小企業・小規模事業者の経営者年齢分布の過半数が60歳代以上という状況を鑑みると、措置の延長、恒久の検討をすべき」(渋澤健シブサワ・アンド・カンパニー㈱代表取締役)。


 こうした声に対し、加藤勝信財務大臣兼金融担当大臣は、事業承継税制の特例措置について、「これは相続税、贈与税の100%を猶予するという特例的な措置で、いよいよ期限が近づいてきているが、まずはこの間にしっかり活用していただくということ、そして、どう活用されていくかということもしっかり検証させていただきたい」と述べた。

 また、同会議の取りまとめの中で、石破茂首相は、事業承継・M&Aといった選択肢も含め、先々の経営判断を計画的に行うことができる環境を整備することを示し、『事業承継・M&Aに関する新たな施策パッケージ』を策定し、中小・小規模事業の経営者の事業承継・M&Aに関する不安や障壁を取り払うため、施策を抜本的に強化する方針を示した。

 東京商工リサーチの調べによると、2024年における社長の平均年齢は63.59歳。一方、2023年から2024年に代表者が交代し
た企業は6万6862社で、代表者の交代前の平均年齢は71.1歳だった。このデータからも、事業承継を控える企業が多数存在することが見込まれるが、円滑な事業承継を実現させるためには、国による積極的な支援が欠かせない。実際、次世代への事業承継を加速させるため、事業承継税制の特例措置が設けられたわけだが、特例措置が終わって一般措置のみの選択となれば、西田幹事長が指摘したように、再び利用が進まない可能性が高いと考えられる。

 事業承継税制の特例措置の終了後、一般措置のみとなってしまうのか、別の新たな措置が講じられるのか――。6月にまとめられる骨太の方針の中で、どのような方向性が示されるのか、今後の議論に注目したい。

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