どうなる!?海外不動産を使った節税スキームの見直し
2019/11/25
来年度の税制改正について本格的な議論が始まったが、富裕層などの間である“節税策”の行方に関心が集まっている。それは、会計検査院が2015年度決算検査報告の中で問題視した「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費」だ。
そもそも減価償却費は、減価償却資産の取得日および種類に応じて定められた償却の方法と、耐用年数省令に基づいた法定耐用年数とによって定められた償却率を取得価額に乗ずるなどして計算するのが原則となっている。
しかし、中古の減価償却資産の場合、法定耐用年数を用いることに代えて、①法定耐用年数の全部を経過した中古資産は「法定耐用年数の100分の20」、②法定耐用年数の一部を経過した中古資産は「法定耐用年数-経過年数+経過年数の100分の20」の算定方法、すなわち「簡便法」を用いることが認められている。
そこで、現在の住宅用の建物の構造別の法定耐用年数を見てみると、木造または合成樹脂造は22年、れんが造、石造、ブロック造は38年、鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造は47年。もし、法定耐用年数の全部を経過していれば、簡便法を用いて木造等の法定耐用年数は4年、れんが造等の38年は7年、鉄骨鉄筋コンクリート造等の47年は9年となる。
これは、国外に所在する建物に対しても同一の税制が適用される。だが、アメリカやイギリスのほうが日本よりも建物が長期間使用されており、日本の戸建住宅は、築後20年で価値が大きく低下するといわれているが、アメリカやイギリスの戸建住宅は、中古住宅と新築住宅との価格差が小さい。そこで、会計検査院は、「国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していないおそれがある」という点に目を光らせたわけだ。
所得税額の申告納税額が多額となっている麹町税務署など10税務署から証拠書類として提出された平成23年分から25年分までの確定申告書等を検査したところ、国外に建物を所有していた延べ751人が減価償却費を計上していた建物延べ1585件のうち、耐用年数が10年以下の建物で中古と判断される建物、また、耐用年数が10年を超えて中古である旨の記載があった建物は延べ562件。このうち、国外の中古等建物は延べ511件で、減価償却費の合計は39億8650万円、所有者数は延べ337人だった。
そして、国内に所在する中古等建物は、耐用年数が11年以上となっているものが過半を占めていたのに対し、国外に所在する中古等建物は耐用年数が4年、7年または9年となっているものが多く、とりわけ「4年」となっている割合が、国外に所在する中古等建物全体の約半数を占めていた。
こうした状況に会計検査院は、「財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性および公平性を高めるような検討を行っていくことが肝要」と“待った”をかけたのだ。
会計検査院の指摘により、自動販売機などを利用した消費税の不適切還付が封じ込められたが、今回の海外不動産を使った節税スキームはいつの時点からどのように見直されるのか、クライアントに提案してきた税理士などの関心が一気に高まってきた。
※『日税ジャーナル第35号』(来年1月中旬発行)は、2020年度税制改正大綱を特集します。