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【特集】 がん治療と仕事の両立を考える

2018/12/05

働く意欲があるのに働けない現実

 地域がん登録全国推計による年齢別がん罹患者数データによると、「働く世代」のがんの罹患者数は、平成14年に約19万人だったが、10年後の平成24年には約26万人まで増加。がん患者の約3人に1人が「働く世代」だ。この「働く世代」が、がん治療によって仕事や家事ができない労働損失は、最大で1兆8000億円に上ると推計されている。

 治療に専念するために離職しなければならない人もいるが、がん治療をしながら体力的に働くことが可能で、しかも就労意欲もあるのに働くことが難しいというケースも非常に多い。その要因はどこにあるのか――。がん対策に関する世論調査(平成28年)の中で「現在の日本社会において、がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働きつづけられる環境だと思うか」という質問をしているが、「そう思う」と回答した人はわずか9.8%。「どちらかといえばそう思わない」(35.2%)、「そう思わない」(29.3%)という否定的な回答が6割を超えた。

 「どちらかといえばそう思わない」、「そう思わない」と回答した人(1170人)に、働き続けることを難しくさせている最も大きな理由について尋ねたところ、「代わりに仕事をする人がいない、またはいても頼みにくいから」(21.7%)、「職場が休むことを許してくれるかどうかわからないから」(21.3%)、「がんの治療・検査と仕事の両立が体力的に困難だから」(19.9%)、「休むと収入が減ってしまうから」(15.9%)などが挙げられた。

 また、「働くことが可能で、働く意欲のあるがん患者が働き続けるようにするためには、どういう取り組みが必要か」との質問(複数回答)に対しては、「病気の治療や通院のために短時間勤務が活用できること」(52.6%)、「1時間単位の休暇や長期の休暇が取れるなど柔軟な休暇制度」(46.0%)といった声が非常に多く、がん治療と仕事の両立を支援する職場環境が十分に整っていない実態がうかがえる。

ネット上には誤った情報が氾濫

 
平成27年の厚生労働省の調査によると、がんと診断されて退職した患者のうち、診断を受けて最初の治療が始まるまでに退職した人が4割を超えている。その理由は、「職場に迷惑をかけたくなかった」、「がんになったら気力・体力的に働けないだろうと予測したから」など、がん治療への漠然とした不安が上位を占めている。


 こうした漠然とした不安を助長する要因のひとつとして、インターネットを通じた情報収集が指摘されている。がん対策に関する世論調査(平成28年)によると、インターネットを通じてがんに関する情報を得ている国民は35%を超えており、39歳以下では約6割にも及んでいる。

 インターネットで検索すれば、がんに限らず、あらゆる病気について様々な情報を得ることが可能だ。しかし、某医療情報サイトが根拠の不明確な記事を載せて大きな問題となったように、インターネット上には正しい情報と誤った情報が、それこそ洪水のように溢れている。こうした状況に、がん対策推進基本計画の中でも「がんに関する情報の中には、科学的根拠に基づいているとはいえない情報が含まれていることがあり、国民が正しい情報を得ることが困難な場合がある」と警鐘を鳴らしている。

 国としても、医業等に係るウェブサイトの監視の強化や注意喚起などを行っているが、これだけ情報が溢れていれば監視をするにも限界がある。今後のがん治療の選択や暮らしに不安を感じた時には、がん専門のカウンセラーなどに直接相談して的確なアドバイスを受けることが重要といえる。

お金の不安は「保険」でカバー

 がん対策に関する世論調査で「休むと収入が減ってしまう」といった声があるように、がんの罹患者の悩みとして「お金」の問題がある。会社を休職すれば傷病手当金が給付されるが、がん対策推進基本計画の中で「がん治療のために入退院を繰り返す場合や、がんが再発した場合などは、患者にとって傷病手当金が柔軟に利用できないとの指摘がある」と報告されている。


 また、職場復帰しても時短勤務などで収入減となり、さらに治療のための支出で家計が苦しくなることも考えられる。こうしたお金の不安をカバーするためには、やはり「がん保険」の加入が有効といえるだろう。最近は、がん保険の付帯サービスとして、がん専門相談サービスや専門医の紹介サービスなども提供されており、こうしたサポートを有効活用する人も増えている。

 お金の不安を解消することも大切だが、がんになっても自分らしく働くことができるかどうかは、やはり企業側の意識改革が大きなカギとなる。2016年には、がん患者が安心して暮らすことができる環境を整備するために「がん対策基本法」が改正された。注目したいのは、がん患者の雇用の継続等に配慮するとともに、がん対策に協力することが事業主の努力義務として盛り込まれた点だ。すでに、一部の企業では、社員のがん治療と仕事の両立を支援する動きが見られるが、今後、こうしたサポートが全国の企業に広がることが期待される。

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