会計検査院が国税庁に検討求める 取引相場のない株式の評価
2025/01/23
昨年11月、会計検査院が令和5年度決算検査報告を公表したが、その中で注目を集めているのが、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価に対する検査結果だ。会計検査院は、類似業種比準方式による評価額が、純資産価額方式による評価額に比べて相当程度低く算定されており、1株当たりの評価額に相当のかい離が生じていると指摘。また、評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向にあり、国税庁に対し、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行うことを求めた。
相続税および贈与税の課税対象となる財産のうち、取引相場のない株式は、財産評価基本通達(評価通達)により株式の発行会社(評価会社)の規模および株主の区分に応じて異なる評価方法で評価する。
具体的には、原則的評価方式として次の3つの評価方式があり、評価会社の規模区分別に選択可能な評価方式が定められている。
①類似業種比準方式:1株当たりの類似業種比準価額により評価
②純資産価額方式:1株当たりの純資産価額により評価
③併用方式:類似業種比準価額と純資産価額を併用することにより評価
また、同族株主以外の株主等が取得した株式については、特例的評価方式である配当還元方式で評価する。配当還元方式は、評価会社の株式を所有することで受ける年配当金額を一定の率(還元率=10%)で割り戻すことで、その元本である株式の価額を計算する仕組みだ。
これらの評価方式の改正により、評価額の間に開差が生じているという意見などもあるが、これまで特段の検証はされてこなかった。そこで、会計検査院は、令和2年分と3年分の相続税および贈与税の申告のうち、取得した財産に取引相場のない株式がある申告の中から1600件を無作為に抽出。評価額の水準はどうなっているか、評価の公平性は確保されているか、還元率は社会経済の変化に応じたものとなっているかなどに着眼して検査を実施した。
類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%
その結果、純資産価額方式による1株当たりの純資産価額の中央値は4万2648円。一方、類似業種比準方式による類似業種比準価額の中央値は1万1622円で、純資産価額の中央値の27.2%となっており、会計検査院では、「類似業種比準方式および併用方式による各評価額は、純資産価額方式による評価額に比べて相当程度低く算定され、各評価方式の間で1株当たりの評価額に相当のかい離が生じている状況」であると指摘。
さらに、純資産価額に対する申告評価額の割合の分布状況をみると、その中央値は、大会社が0.32倍、中会社が0.50倍、小会社が0.61倍となっており、評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向にあった。
この要因について会計検査院は、類似業種比準価額が下がる方向で評価通達が改正されてきたこと、評価通達の計算式が評価会社の業績等の実態を踏まえて株式を評価する方法として適切に機能していないおそれがあることなどを挙げており、「このような状況は、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間で株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえない」としている。
また、評価会社の規模が大きい区分ほど純資産価額に比べて低くなる状況について、「当該かい離を考慮して、評価会社の規模区分を変えるための操作や、特定の評価会社の要件に該当しないようにするための操作をするなどして、税負担の軽減を図る納税義務者が現に存在する」ことを国税庁が認識していることも報告の中で示している。
還元率10%は昭和39年の金利を参考に設定したもの
一方、配当還元方式の還元率10%について、国税庁は昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考にして設定したとしているが、会計検査院が昭和39年以降の長期国債の流通利回りなどの推移をみたところ、昭和40年代から50年代は約6%から約10%までの間で推移し、その後は長期的に低下。平成10年以降はほぼ 2%以下で推移している。
日本の金利の水準が長期的に低下する中、還元率は評価通達の制定以降、一度も見直されていない状況に、会計検査院は「還元率が社会経済の変化に応じたものとなっておらず、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがある」と指摘。
今回の結果を踏まえて会計検査院では、「国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の
評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要」であることを示した。また、会計検査院では、「今後とも相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、引き続き注視していくこととする」としている。
会計検査院の指摘を受けて評価方法は見直されるか?
会計検査院の指摘は、その後の税制改正に繋がるケースが少なくない。例えば、平成22年10月、会計検査院は財務大臣・経済産業大臣に対し、「多額の所得を得ていて財務状況が脆弱とは認められない中小企業者が、中小企業者に適用される特別措置の適用を受けている事態が見受けられたことから、財務省および経済産業省において、地域経済の柱となり雇用の大半を担っている財務状況が脆弱な中小企業者を支援するという当該特別措置の趣旨に照らして有効かつ公平に機能しているかの検証を踏まえ、中小企業者に適用される特別措置の適用範囲について検討するなどの措置を講ずる」ことを求める意見を示した。
その後、平成29年度税制改正において、財務基盤の弱い中小企業を支援するという本来の趣旨を踏まえ、中小企業向け租税特別措置の適用を受けるための要件として、課税所得(過去3年間平均)が15億円以下であることが加えられ、平成31年4月より適用されている。
今回の会計検査院の指摘は、取引相場のない株式の評価方法の見直しに繋がっていくのか、今後の動向に注目したい。