第50回 日税連公開研究討論会を開催 九北会・南九会・沖縄会が発表
2024/11/07
日本税理士会連合会主催、九州北部税理士会・南九州税理士会・沖縄税理士会共催による「第50回日税連公開研究討論会」が10月18日、福岡県福岡市のホテルオークラ福岡で開催された。
当日は、多くの参加者で会場が埋め尽くされ、服部誠太郎福岡県知事も会場に駆け付けた。この公開研究討論会は、会員による研究成果の発表・討論の過程を通じて、税制、税務行政および税理士業務の改善・進歩ならびに税理士の資質の向上を図るとともに、日本税理士会連合会が行う研修事業に資することを目的としたもの。今回は九北会・南九会・沖縄会が担当会となり、研究成果を発表した。
第一部
税はいかにあるべきか~格差から税の正義を考える~
九州北部税理士会
第一部の九州北部税理士会は「税はいかにあるべきか ~格差から税の正義を考える~」を研究テーマとして取り上げた。
その中で、日本の2024年世界幸福度ランキングは51位で、飽食の時代に「フードバンク活動」や「子ども食堂」などの活動が求められている現状を報告。そして、「格差」という非常に深刻な問題を解消するには、「担税力に即した公平な課税」というこれまでの税の考え方から、「目指す社会の在り方を設定」、「税をどのように課税することが有効かを考える」というこれからの税の考え方にシフトすることの重要性を訴えた。
その後、パネルディスカッションが披露され、税の2つの機能である「財源調達機能」と「富の再分配機能」について考察。あるべき税制を実現するためにも、富の行き過ぎた集中が、権力の集中につながり、自由と公正な機会を奪うことは避けなければならない。早急に課税強化をすすめるのではなく、よりよい方策を考え、社会の合意を得ながら打開策を探っていくことが重要と述べた。
さらに、租税教育においては、税は政治的取引で決定されるべきものではなく、誰もが自由・平等で、幸せに暮らしたいという希望を持ち続けられる未来の国づくりのために大切なものであることを理解してもらいたいと訴えた。
また、政治が信頼を取り戻すためには、政治資金の透明化や収支報告制度の改善など、まず監視と規制の強化が急務であると指摘。税の使い途についての透明性の確保として、国民自らが公金を検査請求できる国民訴訟制度の創設が望まれると主張した。
最後に、こうした制度の設計・運用の担い手として、税理士および税理士会の役割が重要であることを税理士は自覚すべきであると呼びかけ、「税の使い途についての透明化を求める」建議の必要性を訴えた。
第二部
税務コンプライアンスを考える~納税者のためにできること~
南九州税理士会
第二部の南九州税理士会の研究テーマは、「税務コンプライアンスを考える ~納税者のためにできること~」。
まず、熊本県チームが「税理士の原点・現状から考える税務コンプライアンス」について発表。税理士が納税者のためにできることは、ただひたすら納税者を守ること。そして、税務の専門家として納税者を適正な納税に導くという強い意志を持って行動することが、税理士による税務コンプライアンスに欠かせない要素であることを訴えた。
次に、大分県チームは「税務コンプライアンスと書面添付制度」を取り上げ、書面添付制度の実際の普及率は低く、制度を上手く活用するためには、研修会の開催や普及キャンペーンの実施、課税庁との情報交換会が必要
であると述べた。また、特記事項のみの記載ができる略式の書面添付の様式の追加を提案したほか、納税者のために修正や更正があった場合に加算税免除というメリットを与えることを提言した。
続いて鹿児島県チームは、「納税者の視座から構築する税務コンプライアンス」について発表。納税者は税に対価性を感じておらず、単なる負担ととらえている。その感覚に寄り添いつつも、適正納税に至るように誘導する必要があると指摘。また、情報処理技術の進展により、「複雑」が「簡素」になりつつあり、納税者の税務手続きがより簡素になるように努め、税制がより簡素になるように主張していく必要があることなどを述べた。
宮崎県チームは、「税務コンプライアンスと租税リテラシー」をテーマに、教育現場のICT化、生成AIへの対応、租税教室の従事者不足といった租税教育の課題を考察。そして、納税者のためにできることとして、社会人のインセンティブとして租税検定の創設、10年ごとの継続研修受講義務化、教員大学養成課程での租税関係科目の必須化などを提言した。
第三部
消費税制の未来への提言
~EUのVAT、ニュージーランドの
GST、消費税の比較を通じて~
沖縄税理士会
第三部では、沖縄税理士会が「消費税制の未来への提言 ~EUのVAT、ニュージーランドGST、消費税の比較を通じて~」をテーマに発表を行った。
その中で、日本の消費税法とE UのV A T(Value Added Tax、付加価値税)の比較検討を行い、日本の消費税制度は、EUのVATを参考に制度設計がなされたが、基準期間制度や事前届出制度、複雑な税率構造、仕入税額控除の権利性、簡易課税制度など、異なる点も多いことを指摘した。
次にニュージーランドGST(Goods andServices Tax)課税の特徴を紹介。納税義務は登録制で、事業開始の時にGST登録を行うことが一般的となっており、納税額の計算は、課税活動の供給額に係る税額から、そのために要した他の登録者の課税活動による供給額に係る税額を控除した金額、つまり「仮受GST-仮払GST=税額」というシンプルゆえに理論上の税の回収率が高いことを紹介した。
その後、ニュージーランド現地で公認会計士として活躍する松堂英斗氏を特別ゲストに迎えてディスカッションを披露。日本の簡易課税制度の問題点や修正すべき事項を取り上げたほか、日本とEUにおける仕入税額控除の権利性、日本とニュージーランドにおける納税義務判定、消費税とGSTにおける納税者の手間について比較したほか、日本の消費税も最初は簡素だったが、事後的な特例や租税回避防止、増税などによって複雑化してきたことを受け、間接税はシンプルであるべきだと主張した。
そして、沖縄税理士会では、①簡易課税制度の見直し、②仕入税額控除の権利性の明文化、③納税義務判定の「基準となる期間」及び届出期限の見直し、④単一税率への回帰、⑤転嫁された税額が、確実に納税される、簡易でフェアネスな税制の構築――という5つの提言を行った。