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インタビューInterview

年間36時間の研修受講義務化にともない より受講しやすい研修環境を整備

2016/07/22

瀬上 富雄 税理士

 研修受講の義務化が始まり、日税連や各税理士会では、全会員の年間36時間の受講達成に向けて、より受講しやすい研修環境の整備を進めている。その具体的な取り組みについて、日本税理士会連合会の研修部を担当する瀬上富雄専務理事に話を聞いた。

研修機会の増加、旬のテーマ選定etc

――研修の受講義務化がいよいよスタートしました。
 税理士の研修受講義務化は、昭和55年、平成13年、平成26年の3回にわたる税理士法改正によって段階的にハードルが上がってきました。今回、税理士法による義務化は実現できませんでしたが、会則によって義務化されたことは、次の世代に向けたひとつのステップだと考えています。

――研修受講率を高めるための施策などを講じる予定はありますか。
 日税連および各税理士会では、会員に対して現在の会場型の研修会だけでなく、インターネットやライブ配信といったより多くの受講機会を提供することで、受講率の向上を目指すと共に、会員の資質の向上を図るため
に研修内容の充実について施策の検討を行っていきます。まず、会場型研修については、平成28年度における「全国統一研修会」を年間101会場で実施するほか、原則として税理士の登録を受けた日から1年以内の税理士を対象とした「登録時研修」についても年間22会場で実施を予定しています。また、研修ホームページについては、「全国統一研修会」101会場のうち10会場分を収録して配信するほか、マルチメディア研修についても平成28年から年5回配信に変更します。そのほか、「公開研究討論会」の配信、各税理士会が独自に実施・収録した研修18本(東京会5本・関東信越会2本・近畿会10本・名古屋会1本)を提供研修として配信する予定です。なお、平成26年度に各税理士会・支部等が独自に実施した研修の開催数は、計5,455回となっており、税理士会員が研修受講しやすい環境整備に努めています。

――現在の研修ホームページの配信数を教えてください。
 平成28年4月15日現在、研修ホームページの配信数は合計100本、配信時間は313時間となっています。今後は本数を増やすことも大切ですが、研修内容をカテゴリー別に分類するなど、使い勝手を良くする工夫も必要だと考えています。なお、昨今のIT化への対応として、一部の研修についてはスマートフォンやタブレットでも視聴することが可能です。

――ライブ配信は、具体的にどのように行われるのでしょうか。
 ライブ配信については、既にいくつかの税理士会で導入しており、研修提供のツールとして機能しています。各税理士会によって取り組み方が異なりますが、地方の税理士会であれば、都市部で行われる研修会場に行かなくとも、近隣の会場で受講できることが大きなメリットになります。また、受信会場は、前面にあるスクリーンの映像を見ながら受講しますが、会場型研修と同様に臨場感もあります。私が所属している東京税理士会の場合、ひとつの大きな会場で研修会を行い、そのほかに500人程度収容できる数カ所の会場といくつかの支部に向けて、その研修会の模様をサテライトで配信することを検討しています。

 会場型、オンデマンド、ライブ配信、それぞれにメリット、デメリットがあり、研修内容によっても向き、不向きがあります。各々の特徴を踏まえながら、上手く取り入れていきたいと思います。

――今回の義務化を受けて研修諸規則も見直されるのでしょうか。
 すでに、日税連において規定等の整備を行い、平成28年4月1日から全国統一化された新しい研修諸規則が施行されました。研修受講義務化は、税理士会の自律規範である「研修規則」において、①36時間以上の研修の受講義務、②受講義務の免除要件、③研修の科目、④受講義務の履行等に関する情報の公表等を定めています。そのなかで、新たなものとしては、研修科目に「税理士法その他職業倫理に関するもの」を追加、一部税理士会で運用されていた認定団体制度を追加、マルチメディア研修の18時間の受講時間算入制限の撤廃などがあります。

――マルチメディア研修だけでも36時間の受講が認められるわけですか。
 はい。先ほども述べましたが、現時点でも100本の配信数となっていますので、研修ホームページからのWeb受講だけでも年間36時間の受講は十分達成できる状況となっています。ただし、例えば、認定研修の要件のハードルを下げることや、書籍等を読んでレポート提出することを認めるなど、露骨な単位取得の拡大策は考えていません。むしろ、全国の税理士会でバラバラになっていた研修ルールを統一化し、すべての会員が同じ条件のもとで、36時間の受講達成を目指すための土壌を整えることに主眼を置いています。

税理士会員の資質向上の一助に

 ――研修科目に「税理士法その他職業倫理に関するもの」が含まれたことで、どのようなことが期待されますか。
 税理士法や職業倫理を深く学ぶことで、いろいろな事故を防げる可能性があると考えます。それと同時に、税理士会や税理士制度について、これまで以上に興味を持って頂けたら嬉しいですね。なお、「職業倫理」については、平成27年度第4回マルチメディア研修のテーマとして取り上げ、研修ホームページにおいて配信中です。是非、ご覧になって頂きたいと思います。

――受講義務の免除要件などはあるのでしょうか。
 会則上であっても研修を義務化する以上、当然、免除規定を設ける必要があります。そこで、会則において「公職に就き業務を停止した場合その他の事由」として規定し、詳細については研修規則で定めています。具体的には、①負傷又は疾病により療養していること、②震災、風水害、火災その他これらに類する災害によること、③税理士法43条後段に規定する報酬のある公職に就いていること、④国会議員又は地方公共団体の議会の議員であること、⑤出産、育児、介護その他これらに類する事由によること、以上の5点のいずれかに該当するときは、所属する税理士会に対して受講義務の免除の申請をすることができます。

――履修義務の未達成者の氏名は、どのように公表されるのでしょうか。
 研修受講義務化の法定化を求めていた際、「日税連においては、研修義務の未履行者の公表等所要の措置を講じる」と明記していましたが、税理士法上の努力義務規定が改正されていませんので、法令と会則の平仄を合わせる必要がありました。そこで、「研修の受講時間及び研修の受講義務の免除に関する記録(前年度分)」が、税理士等の情報の公開に関する規定による公開情報として追加されました。なお、公表は平成30年度(平成30年4月1日~平成31年3月31日)の受講時間から適用され、平成31年10月に日税連ホームページの「税理士情報検索サイト」内で公表されます。

 ――最後にメッセージをお願いします。
 研修の受講義務にあたって、受講義務は全国一律にもかかわらず、受講機会や利便性には大きな格差が存在するとの声も聞かれます。確かに、都市部の税理士会員と、過疎地や離島の税理士会員は受講機会という点で機会均等とは言えないでしょう。こうした点を解消する観点からも、日税連では、より受講しやすい研修環境の整備、研修機会の増加策の検討、時宜に適したテーマ選定等を進め、会員の資質向上の一助となるよう努めていきます。研修のインフラがより整備され、会員の研修受講率が向上した先には、研修受講義務の法定化もあると思います。納税者からの信頼、そしてより良いサービスを提供していくためにも、すべての税理士会員が研修の重要性を認識して頂き、36時間以上の研修受講を達成していただきたいと願っています。そのことが、税務の専門家としての能力を保持すること、さらには税理士制度が社会から必要不可欠な制度として認識されることにも繋がると信じています。

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